一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「お姉! さっきのオーダー、あたしが運ぶから!」

 カツサンドを作り終えた私が、コーヒーの準備をしていれば。
 妹がお皿に載せたばかりの料理をトレイに乗せ、関宮先輩の元へ運んでしまった。

 目にも留まらぬ早業に、異を唱える暇もない。

 ーー役目を奪われた私は、妹と彼の会話をBGMにして。
 別のお客様に提供する料理を、作り始めた。

「お待たせしましたー! カツサンドと、コーヒーです!」
「俺は星奈さんに、注文したんだけど」
「店員を指名できるのは、10回以上ご来店した方のみの特典でーす!」

 妹が今考えたばかりの嘘を堂々と宣言すれば、陽日さん目当てでやってきたお客様達が彼女のことを凝視した。

『自分達は初めて来店したのに、なぜ店主自ら接客してもらえたのだろう』

 そんなふうに不思議がっている表情が、ここからでもありありと見て取れる。

 誤解を説きたいのは山々だけれど…… 
 私が厨房から出ると、騒ぎが大きくなるのは間違いなかった。

 ーー混乱させて、ごめんなさい。

 私は心の中で謝罪をするだけに留め、関宮先輩が店内から出ていくのを待った。
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