一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
 幼い頃の話とは言え、情報漏洩扱いされては溜まらない。
 町中を歩きながら詳しい話を聞くのは無理だと悟った私は、黙って彼の主張に耳を傾けた。

「父さんにどうやって迷惑をかけるかだけを考えて生きてきた俺にとって、星奈さんとの出会いは衝撃的だった」
「……私……?」
「こんなに小さくて、かわいい女の子が涙を堪えて必死に生きようとしているのに。誰も手を差し伸べようともしない。みんなあいつに、夢中だったから」

 大嫌いなあの子を思い出しているせいか。その表情は、悔しそうに歪んでいる。

「君を手に入れるためには、安定した職業に就くのが絶対条件だと思った。公務員なら、なんでもよかったんだけどね」

 私がそんな夫の様子を見つめ、不安そうな視線を送っていたからだろう。彼はどこか諦めたように口元を緩めた。

「今となっては、よかったと思ってる。もし消防士になっていなければ、星奈さんを助けられなかったから……」

 彼は昔を懐かしむように告げる。
 私の住んでいたマンションが火事になった時の出来事を、思い出しているのだろう。
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