一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「これは……?」
「家の合鍵。袋の中には、住所の書かれた紙が入ってる」
「どうして、私に……」
「肌見放さず、持ってて」
「受け取れません……!」

 すぐさま突き返そうとしたが、関宮先輩は私がアクセサリーを外すのを拒んだ。

 これじゃ彼から強引に渡されたものを、返却できない……! 

 私と関宮先輩は、ただの先輩後輩だ。
 交際を了承していないのに、合鍵を預かるなんておかしいーー。

 私は心の中で必死に異を唱え続けたが、長年妹に虐げられてきたせいか。
 嫌われたり、怒られたりするのが嫌で。
 その言葉がどうしても、口から声にして発せられなかった。

 どれほど強く願ったところで、唇から言葉を紡ぎ出さぬ限りは彼に伝わらない。
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