一途な消防士は、初恋の妻を激愛で包み込む
「お姉! 手伝って!」

 妹のヘルプコールを受けた私は、厨房から出る。
 彼女一人では、配膳が間に合わないからだ。

 ーーその気になればいつだって。
 あの子のように気になる異性へ言い寄り、関係を深められたけれど……。

 妹より私を目当てにやってくる常連客が増えれば、あの子は今よりもっと酷い扱いをするはずだ。

 陰口や悪口だけでは、済まなくなる。

 それを恐れた私は、忙しい時だけ淡々と無愛想に、お客様が不愉快ならない程度の対応を心がけながら。
 彼女の仕事を、手伝っていた。

 ーーカラン、カラン。 

 ある日のお昼時。
 陽日さんは常連客に呼び止められ、来店客に気づいていないようだった。

『何名様ですか?』

 いつまで経っても、そう問いかけるお決まりの甲高い声が聞こえて来ない。

 ーー料理も作り終えたし……。
 手も空いていたから……。

 長時間来店客を席に案内せず、その場へ放置するなど有り得ない。
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