敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
背後のモニターに写真が映し出される。着物姿で座机に向かって正座をする私のうしろ姿。脇には一輪挿し。窓の外は鮮やかに紅葉する木々。

パッ、パッ、とストップモーションのように一定間隔で移り変わっていく写真。

いずれも構図はほぼ同じで、私の着物と一輪挿しの花が移り変わっていく。

やがて座机が執務デスクに代わり、羽織やブランケット、ストーブが映り込んで、窓の外の景色とともに冬が深まっていった。

……あの写真、毎日毎日、こんなにたくさん撮っていたんだ。

途中から撮られていることにすら気づかなかった。彼も私の集中を妨げないようにこっそり撮っていたのだろう。

「十月下旬から二カ月間、石楠花先生は人里離れた古民家に泊まり込み執筆に専念されていました。その間、一度も敷地からは出ず、一日十六時間程度、毎日欠かさず作業にあたられていました」

睡眠が六時間、食事や入浴が計二時間、それ以外のほぼすべての時間を執筆にあてていた。

ざわついたのは、普通の人からすれば六十日間休みなく十六時間働くなんて理解できないからだろう。

一般的な労働時間から算出すれば、月二八〇時間以上の残業。とんだブラック企業だ。

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