敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
ふと誓野さんが首筋を覗き込んで言う。先日もらったのは、花の形をあしらった鼈甲の髪飾りだ。

「ああ、これ、ありがとうございました。助かっています。……この花、もしかして石楠花だったりします?」

「俺も石楠花に似ているなと思って、つい買ってしまったんです。俺なんかが髪留めを差し上げても迷惑かなとも思ったのですが……翠さんの役に立てたようでよかった」

クールな表情が急にはにかんだように緩むから、ドキリとしてしまった。

やっぱりなんだかズルい人だ。無駄に格好よかったりかわいかったりするのだから。

「ではまた明日。……ああ、明日はその格好でお願いしますね」

穏やかな表情で言い置いて、彼は帰っていく。私の手もとには彼が持ってきたお昼ご飯の紙袋が残された。

……あ、釜めしだ。おいしそう。

しかも二食分。これなら昼も夜も食べられる。明日は午前中から誓野さんが来る予定だから、これで食事を食べ損ねる心配はなくなったわけだ。

私が休日関係なく仕事をしていることも、集中するとすぐ食事を抜いてしまうことも知っていた。吉川さんから聞いたのだろうか。

< 22 / 188 >

この作品をシェア

pagetop