敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません！～干物女な小説家は容赦なく激愛される～

さすがに寝間着はまずいと思いラフなパーカーに身を包んだが、誓野さんには「カジュアルな格好もお似合いですね」とさらりと褒められ、以後これが普通といわんばかりの態度で接してもらっている。

……確かに執筆はしやすくなったわね。

とはいえ、まだ手応えはなく、惰性で書き続けること一カ月。

原稿の締切まで残り三カ月を切った、そんな十月下旬のある日。

かねて『俺に作戦があります』と言っていた誓野さんだが、その計画がいよいよ実行に移された。

朝早く彼の運転する車に乗り込み、二時間かけてやってきたのは、県外にあるのどかな山の麓。紅葉した木々に囲まれひっそりと佇んでいたのは、歴史を感じさせる日本家屋だ。

「憧れの古民家……！」

明治、大正、昭和初期にタイムスリップしたかのよう。名だたる文豪が筆を走らせていたと思わせる情緒ある光景が広がっていた。

「この家を二カ月間借りました。家財道具はすべて揃えてあります。執筆合宿、といったところでしょうか」

「モチベーション、上がってきました……！　一句読めちゃいそうです」