敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
それは私が今書いている物語の中の話。結婚前の華族令嬢――カヲルは、ともに育った幼馴染であり奉公人の〝彼〟に恋をする。

圧倒的な身分差を前に想いを打ち明けられないふたり。それでも恋の炎は消えず、カヲルはすべてを捨てて彼についていこうと決める。

「俺が思うに作品に足りていないのは、よりリアルな感情とそれに付随する描写です。まったく同じ状況とはいきませんが、近いシチュエーションを経験すれば、これまでにない気づきがあるかもしれません」

彼が玄関に荷物を運び込む。大きな荷物を軽々と担ぎ上げる仕草にどきりとした。

こうして日常生活を送っているだけでも、彼と私は――男と女は行動が全然違う。

ただ気分を変えるためだけにここに来たわけじゃないんだ。

私に男を教えようと……恋をさせようとしているの?

こちらに戻ってきた彼が、トランクから私の分の荷物を取り出しながら言う。

「主人公により近い立場で、〝彼〟を観察してみてください。物語に落とし込める感情があるかもしれません」

彼が私の分の荷物を持ち上げる。手伝おうとすると、「いえ、俺が」と端的に断られた。

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