敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません！～干物女な小説家は容赦なく激愛される～

トレイの上の一輪挿しに目を向ける。昨日はダリア、今日はりんどう、秋らしいお花を毎日一本ずつ小さな花瓶に生けてくれる。

「おまじないです。執筆がうまくいくように」

艶やかな笑みを浮かべて言う誓野さん。

「それにほら。主人公のカヲルも花をもらって喜ぶシーンがあるでしょう？」

奉公人の〝彼〟から花をもらったのがきっかけで、想いを自覚するカヲル。植物が好きで物語の端々で花を愛でている。

「そうですね。こうして毎日近くで花を見ていると、カヲルに近い気持ちになれるかもしれません」

「それはよかった」

そう言って花瓶を座机の端に置く誓野さん。涼やかで上品なりんどうは、どことなく彼に似ている気がした。

「それにしても、今日は晴れ間がなくて冷えますね。寒くはありませんか？」

「羽織もあるので問題なく。でも、もう少ししたらストーブをつけないと」

日本家屋はとにかく寒い。これまで気密性の高いマンションにいたから、なおさらそう感じる。

とくに朝晩は気温が下がるので、あと一カ月も経ったら手がかじかんでキーボードが叩けないなんてことになるかもしれない。