敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
誓野さんは「寒くなってきたらこれを」と言って、腰に下げていたショルダーポーチから指先の空いた手袋を取り出す。

「ヒーター機能付きの手袋です」

「ええっ!? 文明の利器……!」

「時代背景に合わせた環境だからといって、苦行をする必要はありませんから。ムードを楽しみながら快適に暮らしましょう。テーブルも手配しておきます」

ごもっともだ。PCを使っている時点で文豪の真似など無意味。

「それと、お願いがあるのですが」

そう前置きして、ポーチからもうひとつ取り出したのはデジタル一眼レフカメラだ。

「映画の宣伝用に翠さんの執筆風景が欲しいという話が持ち上がりまして。何枚か撮らせていただけませんか?」

「えっ……」

思わず拒否感をあらわにしたのは、すっぴんだったから。撮影におあつらえ向きの和服を着てはいるものの、顔の準備ができていない。

「写真はメイクをしているときに……」

「今の翠さんの方が、真摯に作品に取り組んでいる情感が伝わっていいと思うんですが」

「ダメですよ。吉川さんから聞いてませんか? 石楠花みどりのプロモーション戦略。すっぴんのぶちゃいくな私を見たら読者が幻滅してしまいます」

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