敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
ああ、そういえば彼、お金持ちだったか。実家はお屋敷なんだなあと遠い目をする。

「髪飾りも、それだけでは寂しいですね。簪でも買ってきましょうか」

パシャパシャとシャッターを切りながら言う彼に、私は「いえ。髪飾りはこれが気に入っているので」と辞退する。

彼がなにげなくくれたこの鼈甲の石楠花は、着物にとてもよく似合う。

「……簪なんて難しそうですし。留め具がついていないと使いこなす自信がありませんから」

「俺が練習しますよ。あなたの髪を結えるように」

シャッター音を聞きながら窓の外に視線を向け、ぼんやりと考える。

……なんていうか、マメな人だなあ。

この日本家屋を用意するだけでも大変だっただろう。わざわざ口にはしないけれど、休日を返上して準備したに違いない。

さらに着物を用意したり毎食手の込んだ和食を作ったり花を生けたり。

どうしてそこまでしてくれるのだろう。

作家を支えるのが仕事だとしても、住み込みで世話までする必要はないはずだ。

「誓野さんって不思議な方ですね。いくら仕事熱心でも、ここまでする編集者はいないと思います」

素直な感想を口にしたところで、ようやくシャッター音が止んだ。

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