敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
「お気になさらず。俺は全部、自分のためにしているので」

彼の言い方が、まるで自身のエゴを詫びるようで少しだけ引っかかる。

「……ちなみに吉川さんは、『私なら温泉付きの高級旅館を手配して自分も恩恵にあずかる』と言っていました」

彼のタレコミに「吉川さんらしい」と苦笑する。

「あなたも、その方がよかったですか?」

「それはそれで楽しいんでしょうけど……旅館じゃ三日で飽きちゃいそうですし。観光客のざわざわした感じが落ち着かないでしょうから」

わびさびの感じられるこの場所がちょうどいい。誓野さんとふたりの方が落ち着くし。

そう思いかけて、ふたりがいいってどういうことだろう?と首を捻る。

男性とふたりきり、ひとつ屋根の下で暮らす危うい状況なのに落ち着くって。私、どうかしているのでは?

それだけ誓野さんを信頼し始めているということ……?

出せない答えに蓋をするかのように「――それに」とまくしたてる。

「日本家屋で暮らすの、憧れていたんですよね。幼いころからずっとマンション暮らしだったので」

「それはよかった」

誓野さんは気にした様子もなく微笑む。

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