敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
悶々と考え込んでいると、誓野さんがふと私の背後に回った。

「少々お待ちを。ドレスが汚れては大変ですので」

そう言って私の胸もとに紙エプロンを垂らす。

そんなもの、いつの間に用意していたの!? 周到すぎるのでは?

「いえ、あの、ドレスだなんてたいそうなものではありませんので、お気になさらず……」

一見すると優雅に見えるロング丈のワンピースは、ネット通販で三千九百円。

まあ、私的には充分なお値段なのだが、おそらく彼はさらに上――数万円の高級ワンピースだと思っているんじゃないかなあ。

メディアに露出するときは、出版社の意向でお洒落な服を着ているから、そのイメージが強いのだろう。

本当はファッションに興味などないけれど、世間的には一応、『知性と美しさを兼ね備えたハイセンスな女流作家』として通っている。

シリアスな歴史ミステリーを書くことが多いから、そのイメージを壊さないでくれと出版社からお願いされているのだ。

名付けて『石楠花みどりプロモーション戦略』。

雑誌やテレビに映るときは一流ブランドを身に纏い、スタイリストやヘアメイクさんが凛とした美女に仕立ててくれる。

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