敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
彼は胡坐の姿勢から膝を立て、そのままごろんと横向きに寝転んで肘をついた。

「おいで」

唐突に甘く囁かれ、びくんと背中が震える。

隣に眠れということだろうか。ふたりのシーンを再現しようというの?

「っ、でも……」

「大丈夫、絶対に触らないから」

物語の中でも〝彼〟からは触ってこない。なにしろは眠っているのだから。

「なにもしないと約束するから。おいで」

一瞬、男性への恐怖と警戒心が湧き上がったが、誓野さんがなにもしないことはよく理解していた。彼はそういう人じゃない。

唇を引き結んで意を決すると、彼の横にそろりと横たわる。それから、カヲルがしたように距離を詰めていき、彼の近くに並んだ。

目の前に自分よりずっと大きな体。三十センチの距離が驚くほど近く感じられ、この空間だけ空気の成分が違うような気すらする。温度も湿度も周りとは別物だ。

カヲルにとって男性の体は未知のもので、その感触を知りたくて、でも知ってしまったら後戻りはできないこともわかっていて、清らかな心身を貶めていくような背徳感に襲われる。

彼の呼吸にあわせた胸のわずかな動きにも反応してしまう。

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