敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
触れたいようで触れたくない矛盾。

「カヲルはどんな気持ち?」

「……えと……言い表せません。踏み出したい気持ちと緊張と罪悪感でごちゃごちゃになって、チープな言い方をすればパニックなのでは」

「うん。大正時代に生きる淑やかなカヲルは、素直にドキドキなんて表現できないから――」

私がうまく言葉にできなかった部分を誓野さんが補ってくれる。

「内に熱を抱え込んで、悶えたんじゃないかな」

彼のひと言に納得した。私が書いた〝恥ずかしい〟〝緊張する〟といった言葉がいかに安っぽかったのかを。

言語化できないほどの溢れ出る高揚を、仕草ひとつひとつにのせなければいけなかったんだ。

「俺は触らないけど、翠さんが触る分にはかまわないから」

ふと誓野さんが呟く。

「……それは、どういう」

視線を上げると、余裕のある笑みがそこにあった。やれるもんならやってみろと言われているようにも感じた。

「いいよ。どこでもどうぞ。俺は眠っているから」

そう言って、そのシーンを表現するかのように目を瞑る。

私はカヲルと同じく、そっと音を立てないように彼の方に手を伸ばした。

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