敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
胸もとの衣服のたるみに手をかけ、きゅっと握ろうとするも。

……う……緊張。

握るなんて、とてもできなかった。触れれば相手が起きてしまうかもしれない。そうしたらどう思われるかわからない。

伸ばした手が震える。指先にほんの少し、彼の服の繊維が触れる。

ざらりとした冷たい感触に途方もない罪の意識を覚える。

――これが、私が書き表せていなかった葛藤。心の生々しさ。

ようやく服を掴むも、親指と人差し指の先でつんと摘まむので精一杯だった。

「……随分とかわいい触れ方だな」

ふと上から声が降ってきて、見れば彼は口もとを緩めていた。

「〝彼〟は起きないはずですけどっ!」

「〝彼〟は目こそ開けなかったけれど、本当は起きていた設定だよね?」

まあ、それはそうなのだが。でも『かわいい』なんて絶対に口にしない硬派なキャラクターだ。

誓野さんがくすくすと笑う。

「自分が寝ている間にこんなことされちゃ、たまらないな。〝彼〟は一途で真面目な男だから、乱れたりはしないんだろうけれど。イチ男として理性の限界だったと推測するよ」

理性の限界――ああ、そうか。

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