敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
カヲルだけでなく〝彼〟にとってもこれは意味のあるシーン。彼女を女性として意識し、理性と本能に揺さぶられる様が読者に伝わらなければならない。

「なるほど。〝彼〟の気持ちがわかる描写を追加しないと」

閃いたように言うと、誓野さんは「そっちかあ」と少々残念そうに呟いた。

「そっち、とは?」

「……いや。ただ、俺も結構頑張って我慢してるの、気づいてほしかったなって」

「え?」

「いいんだ。こっちの話」

ぶつぶつと口惜しそうに言いながらも誓野さんは上半身を起き上がらせて、私に手を差し出した。

「俺で役に立てたならよかった」

彼の手を取って起き上がる。役に立ったどころか、この感覚は誓野さんがいなければ得られなかったものだ。

自身の未熟さや経験のなさが筆に表れることを思い知った。

「すみません。……あの、お察しかとは思いますが、私、こういった恋愛の経験が少なくて」

恋愛したことありませんとはさすがに言えなくて濁すと、彼は小さく笑みを浮かべた。

「普通はこんな純愛、経験したことありませんよ」

「そ、そうですね……純愛……は、難しいですね」

都合よく解釈してもらえて安堵する。

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