敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
「以後も、その……。できれば、リアリティのない部分をご指摘いただけると助かるのですが」

ぴょこっと頭を下げてお願いすると「もちろんです」と柔らかな声が降ってきた。

「お手伝いします。幸い、今作はベッドシーンのような過激なものはありませんので、カヲルと〝彼〟の触れ合いを全部やってみればいいんですよ」

清々しくとんでもないことを言われて、うつむいたままぎょっと目を見開く。

全部!? 手を繋いだり、ハグをしたり……?

まあ幸いその程度しかないのだけれど、再現のたびに私の心臓がもつかどうか。

「……よろしく、お願いしマス……」

いっそう頭を垂れてお願いする。

彼が部屋を出ていったあと。私はせっせと当該シーンの手直しをした。彼の隣に横たわったときのリアルな感情を思い出しながら。

指先を見つめて、彼の服を摘まんだときの感触を思い出す。

あの一瞬だけ確かに私は、カヲルになりきって誓野さんに恋をしていたのだと思う。



それからさらに三週間。師走になり、木々の葉は枯れ落ちてすっかり冬景色になった。執筆作業は佳境に入っている。

「それでは失礼します」

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