敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
どこからどう見てもごく普通の女の子。腕の中には、細くて小さな体には不釣り合いの大きなトロフィー。

……大丈夫なのか? さっきのあの感じじゃ、演説なんてできないんじゃ。そんな心配を抱いていたのだが――。

『みなさま初めまして。石楠花みどりと申します。この度は歴史ある賞を頂戴し、大変光栄に存じます』

スポットライトを浴びて凛と立つその姿は、受付でおろおろしていたあの女の子とは別人だった。

『かつての文豪が作り上げた日本文学の美しさ、言葉で築く芸術を、歴代の先生方が絶やさぬよう紡いできてくださいました。この賞を賜ると同時に、次の世代へ繋いでいくバトンを預かったのだと、その重さを実感しています。この栄誉に恥じないよう、精一杯文学と向き合っていきたいと決意を新たにいたしました』

そう語る彼女の目は、胸に抱くトロフィーの金色と同じくらいキラキラと輝いている。

彼女は立派な一人前の作家で、社会人で、俺よりもずっと人生の高みにいる、そう感じた。

『なにより私は本が好きです。この小さな紙の束にとある人間の生涯が綴られていると思うとわくわくする。私の夢は人の心を揺さぶる作品を創造すること――』

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