敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません！～干物女な小説家は容赦なく激愛される～

ああ、彼女は文学を、本という芸術作品を、心から愛しているんだ。

夢に向かって真っ直ぐ歩き続けていく彼女と、ただレールの上を転がっていくだけの自分、どちらが実りある人生かといえば明白だ。

彼女へ向けた嫉妬にも似た感情は、尊敬の念であり、敗北感でもある。

俺がこの先どんなに順当な人生を歩んだとしても彼女には敵いやしない、そう感じてしまった。

同時に、彼女のように輝きたい、人生を自分のものにしたい、価値があると認めたものに生涯を費やしたい、そんな思いを抱くようになった。



それから俺は、与えられるだけの人生にはならないよう精一杯努めた。

経営者として父を越えたい。そのためにもまず地道に北桜出版の一社員として研鑽を積むべきだと思った。

結果的には当初の道筋と同じだ。だが目的意識はまったく違う。

壇上で輝く彼女の気高さを思い出すたびに、価値ある生き方をしなければと初心に帰る。

三年、四年、五年と経っても彼女は心の片隅にいて、俺の目標になってくれた。