敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
『少しくらい男性にときめく気持ちを持っていただかないと』――吉川さんの言葉を思い出し、勝負に出た。

「翠さん。しばらくの間、俺の恋人になってください」

荒療治だとしても俺を男性として見てもらう――私欲なのか献身なのか、あるいは両方だったのかもしれない。



一カ月後、祖母の伝手で知人の別邸を借り、ふたりきりで暮らし始めた。毎日彼女のテーブルに花を飾り、執筆する姿をカメラに収めていく。

和服の彼女が机に向かって首を垂れ、白いうなじを覗かせている。隣には一輪の花。窓の外には秋から冬へ移り変わっていく景色。

……綺麗だな。写真集を出せば本当に売れるんじゃないか?

すでに映画のパンフレットに彼女のインタビューつきでこれらの写真を載せると決まっているのだが。当人にはまだ内緒である。

彼女は執筆に集中していてシャッター音に気づかない。うしろ姿だけでも伝わってくる無垢な美貌。無防備なその背中につい手を伸ばしたくなる。

……彼女が男嫌いでよかった。

そうでなければとっくに誰かのものになっていただろう。こんな稀有な女性を男が放っておくわけがない。

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