血だまりに咲く。 ~序
純粋に喜んでくれていた。頷くしかなかった。

『ついでがあったら遊びにおいで。長崎達もたまには顔を見たいだろうしね』

「ありがとう、ございます」

図々しく「いつでも帰っておいで」を期待してたんだろうか。胸の奥が針で刺されたようにチクチクした。その痛みを無視した。考えたら、桜井さんに見られたくない情けない顔を隠せる自信がなかった。

『明日は見送れないのが残念だけど、今までご苦労さま。天音ならどこに行ってもしっかりやれるから、心配ないね』

「・・・ぜんぶ若のおかげです。本当にお世話になりました、この恩は一生忘れません・・・っ」

『そんなのはいいよ忘れて。じゃあ元気でね』

若のやわらかい笑顔が広がって消えた。その時のために別れの挨拶は用意してあったのに、10分の1も伝えられなかった。

飲みすぎと風邪引きに気を付けてくださいね。

食べず嫌いも少しは治したほうがいいです。

それから。

・・・それから。

あっけない最後だった。なにも写さなくなったスマートホンを桜井さんに手渡し、「ありがとうございました」と小さく頭を下げた。

「香西」

名前を呼ばれたけど返事はできなかった。俯いたまま、目からポタポタ落ちる水を止めようとただ必死に堪えて。

「・・・泣く時は俺の胸で泣け」
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