歪んだ月が愛しくて3
当初の予想通り“鬼”の幹部=風紀なのは間違いない。
情報が極端に少ないのがその証拠だし、あの頼稀ですら手子摺る存在は早々いない。
だから今回は結城さんに調査をお願いしたわけなんだけど、どっかの誰かさん的には面白くなかったかもしれない。ただ今回に限っては別件もあったから仕方なかったんだけど。
「それにしてもやけに総長の情報が少ないね…」
「あー…確かに。でも今そっちは興味ねぇからどうでもいいわ」
「ほお?」
「今の俺に必要なのはキョウの情報と、そのキョウに協力してるかもしれないシキのことだけだから」
「まあ、極論を言えばそうだね」
「だったら無駄な労力を割く必要はねぇだろう?」
「ふふっ、仰せのままに」
「………」
隣に座るアゲハが俺の手を取ってそのまま手の甲に唇を押し当てる。
自然な仕草に一瞬受け入れてしまいそうになったが、汐の「総長ずりー…」の声に我に返りアゲハの手を振り払った。
「……キショイ」
「忠誠の証さ、改めてね」
「いらん」
誰がそんなもん欲しいって言ったよ。
アゲハからの忠誠なんて“B2”の総意って言ってるようなもんだろうが。
そんなクソ重いもんこっちから願い下げだわ。
「それはそうと、君の持ってる情報はこれで全てかな?」
「ああ…」
『―――早速君から連絡をもらえるとは嬉しいね。どう?俺の情報は君の役に立ちそう?』
『ええ、十分過ぎるくらいに。それに折角この短時間で調べてくれたんですからちゃんと有効活用させてもらいますよ』
『君の頼みは出来る限り叶えてあげたいからね。それに学生はもう少しで夏休みに入るでしょう。俺の予想ではその前に向こうから何かしらのアクションがあると思うからちょっと頑張っちゃった』
『ありがとうございます』
『あれ?その反応……もしかして気付いてた?』
『まあ、順当に行けばそうなりますからね』
『あははっ、流石立夏くん!俺ね、賢い子は好きなんだよね!』
『それはお礼を言うべきですか?』
『いんや。ただそんな賢い君に俺からプレゼントがあるんだけど、受け取ってくれる?』
『勿論、御幸陽嗣の情報なら喜んで』
『ありゃ。なーんだ、やっぱり気付いてたか』
『俺が依頼したのは“鬼”の幹部の素性ですから』
『それには元幹部の情報も含まれてるってね、うんうん。やっぱ立夏くんサイコーだわ』
『で、調査結果は?』
『えー、そんなすぐ本題に入っちゃう?もう少しパパとお話ししようよぉ』
『……今度お店に行きますから』
『やったー!約束だよ!言質取ったからね!』
『(早まったかな…。てか、この人こんな性格だったっけ?)』
『じゃあ早速報告するね。本名御幸陽嗣、生年月日は19××年×月×日、年齢18歳、血液型A型、身長182…「その辺は省略で経歴からお願いします』
『せっかちだな立夏くんは。まあ、この辺は大して重要じゃないんだけどね』
『(この人ちゃんと会話する気あるのかな…)』
『えっと、御幸陽嗣は神代財閥の傘下にあたる御幸グループ代表の三男で、幼稚舎から聖学に通ってる生粋のお坊ちゃまだよ。その立場と育った環境から必然と神代家の坊ちゃんと親しくなって現在に至るって感じ。まあ、この辺は俺なんかよりも立夏くんの方が詳しいと思うけど』
『……続けて下さい』
『御幸陽嗣が“鬼”に入ったのは中等部2年。キョウこと水蓮桔梗に誘われたのがきっかけみたい』
『あの2人の関係は?』
『友達だったみたいだよ』
『だった?』
『聞きたい?その先聞いちゃったら多分立夏くんは後悔すると思うよ?』
『………』
『それでも聞きたいの?後悔しても?』
『……確かに、後悔はしたくないですね』
『でしょう。他人のために自分が非を被るなんて偽善者のすることだよ。いくら立夏くんの先輩だからって赤の他人なんだから気にする必要ないよ』
『偽善者ですか…。まあ、確かに赤の他人の俺が気にすることでもないか』
『そうそう。だからこの話はここまででおしまいね。後は八重樫組のことだけど…―――』