歪んだ月が愛しくて3



「しかし、何故シキは立夏くんの前に現れたんでしょうか?」



ハッと、その声に我に返る。



アゲハに痛いところ突かれて思わず結城さんとの電話のやりとりを思い出してしまった。



食えない人だったな。
飄々としてるから何考えてるか分からないし、そのくせ笑顔で毒を吐く残酷な一面も持ち合わせている。
第一印象とはえらい違いだ。

でもあの人の実力は本物だ。
そうでなければあの頼稀が態々情報屋なんかを頼るはずないし、その頼稀ですら手子摺っていた“鬼”の情報をこの短時間であっさりと掴んだんだからな。
本当結城さんがこっち側の人間で助かった。
もしあの人が敵だったら…。ははっ、想像しただけで恐ろしい。



「こちらがどこまで奴等の情報を掴んでいるか探るためだろうね。僕等と駒鳥が一緒にいる時にあえて接触することでその反応を見たかったんだろうが…」

「じゃ、じゃあ!向こうは立夏くんの正体を知ってるってことッスか!?」

「その確信を得るために接触して来たんだろう。まあ、その結果確信が確証に変わっただろうがな」

「、」



結城さんのことを考えてたら話が思わぬ方向に進んでいた。



……俺、この話あんましたくないんだけどな。



「そ、んな…、それじゃ立夏くんは…っ」

「そんな顔しないでよ」



咄嗟に汐の言葉を遮ると、汐は驚いたように目を丸くして俺を見つめた。



その表情の裏に隠された感情は何?



悲しみ?

憐れみ?

同情?



「立夏、くん…」



……ほら、その顔。



俺はね、そんなものいらないんだよ。



貰う資格すらない。



「大丈夫。奴等が聖学にいる時点でこうなることは予想してたし、キョウが白夜叉に執着するのも身から出た錆みたいなもんだから。……ね?だから汐が気にする必要はないんだよ」



他人から向けられる負の感情にはもう慣れた。
一部の物好きな連中からは憧憬みたいな視線を向けられることもあるけど、そう言う悲痛な顔を向けられるのは未だに変な感じがする。





『頼むから、もっと自分のことを大切にしろ』





……ムズムズする。



「何で…、気にする必要ないとか、そんなこと言わないでよ…」



その感情が理解出来ないわけじゃない。
俺にも大切なものがあるように、きっと汐達にもそう言うものはあるはずだから。
実際、俺にとって汐は大切な友達だ。
怪我したら当然心配するし、誰にも傷付けられない安全地帯にいて欲しいとも思っている。
だから頭では理解出来る。ただそれが自分に向けられるのは何か違う気がするだけ。



(理屈じゃないんだろうな、こう言うのって…)



「……立夏くん、俺達は立夏くんの護衛だよ。それに俺も汐も立夏くんのことを友達としても大切に思ってる。気にするな、なんてそんなの無理に決まってるだろう」

「ありがとう遊馬」

「俺だって立夏くんのことが大切だよ!立夏くんが思っている以上にずっとずっと…!」

「汐もありがとう。俺にとっても2人は大切な友達だよ」



……ああ、俺、ちゃんと笑えてるかな。



友達って、大切って、そんな風に想ってもらえて嬉しいはずなのに。



「でもだからこそ2人の重荷になりたくないんだ。俺なんかのことで頭使うなんて勿体無いし時間の無駄だよ」



全然感情が乗って来ないのは、何でだろう。



「無駄なんかじゃ…っ」

「重荷になりたくないって言ったでしょう。大丈夫。自分のことは自分で何とかするし、皆にも迷惑掛けないようにちゃんとやってみせるから」

「、」

「立夏くん、やっぱりこれが終わったら…」

「安心してよ。中途半端なことはしな…「駒鳥」



不意にアゲハの声が俺の言葉を遮った。



自然と、エメラルドの瞳と目が合う。

その瞳は三日月のように歪められ口元に弧を描いていたが…。



「そう言うことじゃねぇんだよ…」



何故かアゲハの代わりに声を上げたのは頼稀だった。



「……そう言うこと?」



何それ?

俺、何か変こと言った?



俺を真っ直ぐに見つめるアゲハとは違い、他の3人はそれぞれの感情を表情に乗せて俺を見ようとはしなかった。



……でも、分かる。

彼等の顔が「悲しい」と訴えていた。



ピーンポーン



「、」



突如鳴ったその音に思わずビクッと肩が跳ねた。
同時に彼等の視線が一斉に玄関の方へと向けられた。



ふぅ…と、一度瞼を閉じてからゆっくりと目を開ける。



頭を冷やそう。

このまま話していても埒が空かない。



「……ごめん、ちょっと見て来る」

「え、あ、立夏く…」

「行ってらっしゃい」



汐の困惑した声も、周りの視線も全部振り切ってリビングを出た。

ペタペタと廊下を歩いてインターホンの前で立ち止まる。



頭を冷やすために一時的に皆の元を離れた。

そのはずなのに…。



ピンポーンピンポーン

ピピピピピピポンピポンピンポーン…



「……喧しいわっ!!」



どこの悪徳セールスだ!?

ここって一応学生寮じゃなかったっけ!?

頭を冷やすどころか余計沸騰しそうなんだけど!!



イライラしながらインターホンの画面を見ると。



「……は?」



画面に映し出された人物に素っ頓狂な声が漏れる。



……え?

ちょ、ちょっと待って。

何でこの人がここにいんの?

こんな子供っぽい悪戯すんのは未空か陽嗣先輩辺りだと思ってたのに。



困惑している間にもピンポンピンポンと鳴り響く。

魂胆は分からないが、とりあえず出ないことにはこのピンポン攻撃が続きそうだ。



てか、中にいるって分かっててやってるのかなこの人?



画面を少し操作してから「…今開けます」と言って玄関ドアの施錠を開けた。















「本当、駒鳥は残酷だね…」



その声が俺に届くことはなかった。


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