歪んだ月が愛しくて3
「よお」
「……よ、お?」
え、デジャヴ?
玄関のドアを開けると、何故かそこにいたのは制服姿の会長だった。
……まあ、格好はいつも通りだけどさ。
「会長って意外と子供っぽいんだね」
「は?」
そう言えば今日は生徒会に顔出さなかったから会長と会うのはあの日以来か。
「何でいんの?ここ俺の部屋なんだけど…」
「だから来たんだよ。てか、前にも訪ねたことあるだろうが」
「あ、そっか」
既視感の正体はこれか。
確かに前に一度だけ……いや、2回くらい訪ねて来たことあったな。
でも用もないのに会長が俺の部屋を訪ねるはずないし…。
ハッ、まさか今日の仕事をサボったから?
いやいや、それについては事前に九澄先輩に許可を取ったから問題ないはず。
……じゃあ何で?
そんなことを考えていると、不意に上から視線を感じた。
でも会長は何か言いたげな視線を向けるだけで何も言わない。
え、何?
俺何かやった?
「……お前、飯はもう食ったのか?」
……ん?
メ、シ…?
「いや、まだだけど」
「なら一緒に食べないか?」
「夕飯を?何でまた…」
嫌なわけじゃない。
でも何の魂胆も無しに会長が俺を誘うだろうか。
……いや、きっと何かある。
電話で呼び付けるわけでもなく、態々俺の部屋に訪ねて来たわけが。
「お前に話がある」
「話?」
……ハッ!!
不意にあの日の出来事が走馬灯のように蘇る。
あの日、俺がナツと別れてヤエと合流する前、念のために頼稀に1通のメールを送った……はずだった。
それから暴れ狂うヤエを何とか大人しくさせていざ皆のところに戻ろうとした時、中々頼稀からの返信がないことを疑問に思い自分が送ったメールを見返したら、俺が頼稀だと思ってメールを送った相手はあろうことか一番知られたくなかった会長だったのだ。
しかもメールの内容が『ヤエと会って来る。無事じゃ済まなかったらフォロー宜しく。因みナツは時間稼ぎ』と、まあ色々と暴露しちゃったんだよね。もう最悪。言い訳もクソもない。
皆と合流した後は勿論怪我について色々尋問されたけど、会長だけは「…大丈夫か?」の一言でそれ以上追及されることはなかった。
でもずっと何か言いたげな視線を感じていた。
あの時は皆がいた手前我慢してくれたんだろうけど、今は…。
「うちのシェフを呼んだから味は保証するぞ」
「うちって…、態々会長の家から呼び付けたってこと?」
「ああ」
ああって…。
ただ話をするためだけに自分んとこのシェフを呼び付けといて、さも当然のように言わないでくれ。
俺が可笑しいみたいじゃん。可笑しいのはそっちだからね。
「それとも、先約でもあるのか?」
「あー……うん、まあ…」
「この時間からか?まさかまた抜け出して街に行くつもりじゃねぇだろうな?」
「そんなんじゃないけど…。それについては会長も人のこと言えないじゃん」
「生徒会長の特権だ」
「それ絶対嘘。てか、生徒会長の特権じゃなくて会長だけの特権だろう?」
「愚問だな。……で、誰と会うつもりだ?」
「ゔっ…、だから、別にそんなんじゃなくて…」
「じゃあどんなんだよ?」
あのこと、やっぱ聞きたいよね…。
会長の立場では当然だと思うけど俺にも心の準備ってものがあるわけで、そんでもってその準備がまだ出来てないんだよね。
「あ、のさ、誘ってもらったのは有難いんだけど、やっぱり俺…」
やんわりと断ろうとした時、後ろから足音が近付いて来た。
「残念ですけど、立夏の夕飯はうちで用意してるんでお断りします」
その主は俺の言葉を遮ると、態とらしく後ろから俺の肩に腕を回した。
……挑発してるよ、頼稀さん。