歪んだ月が愛しくて3
「立夏」
「はっ、はい!?」
「希に夕飯食うの少し遅れるって言って来てくれ」
「イエッサー!」
自分の部屋から逃げるように飛び出して希の部屋に向かう。
後ろからは「あ、逃げんじゃねぇ」と会長の文句が聞こえた。まあ無視だけどね。
でもいつ後ろから追い付かれるか分からなかったから、俺はインターホンも押さずに希の部屋に逃げ込んで一直線にリビングのドアを開けた。
「希入るね。あのさ悪いんだけど夕飯ちょ、と…おく、れ…」
それがいけなかった。
ドアを開けて真っ先に目に飛び込んで来たのは、着替え中の希だった。
「うわっ!!」
「ご、ごめんっ!!」
謝罪の言葉と同時に、俺はリビングのドアを勢い良く閉めた。
………ん?
あれ、今のって…。
バクバクする、心音。
まるで悪戯がバレた子供の気分だった。
……見て、しまった。
何をって…、そりゃ俺には無縁のもんですよ。
……いや、待って。本当待って。
頭が追い付かない。
つまりアレが俺の見間違いじゃなければ希は…―――。
ガタッ。
「っ!?」
背後から聞こえた物音にビクッと肩が跳ねる。
この状況で希と顔を合わせるの気まずい。てか無理。色々と無理過ぎる。
一度頭の中を整理したかった俺は、今度は希から逃げるように部屋を飛び出して自分の部屋へと戻り勢い余ってリビングのドアを開け放った。
そこには未だ“B2”と会長が何やら言い争いを続けていたが、俺が戻って来たと分かると彼等は訝しげな視線を俺に向けた。
「……どうしたの立夏くん?そんなに慌てて」
「何かあったのかい?」
はぁ、はぁ…と、呼吸を整える。
「や、別に…」
……落ち着け。落ち着け俺。
頭ん中整理するんじゃなかったのかよ。
呼吸整えるので精一杯とかクソダセーだろう。
何のためにこっちに戻って来たのか考えろよバカ。
でも…、
「……立夏?」
「、」
頼稀の顔を見た瞬間、先程までの羞恥心と罪悪感がブワッと溢れ出した。
だから、俺は咄嗟に。
「お、俺っ!今日は会長と飯食って来る!」
そう言って会長の腕を掴んだまま部屋を飛び出した。
「……は?」