歪んだ月が愛しくて3
エレベーターに乗って最上階を目指し、ドアが開いたと同時に会長の部屋の前まで一直線に走り抜ける。
普段ならこんな短距離で疲れるとかないんだけど、何故か頼稀から逃げ切れた安堵感からゼェゼェと息切れが止まらない。
「こ、ここまでくれば…」
「お前は脱獄中の逃亡犯か?」
「そんくらい必死なんだよこっちは!」
だ、だって、俺が見たものが正しければ希は……あぁぁあああああ!!
何であの時インターホン押さなかっただよ俺ぇえええ!!
押してたら絶対こんなことになってないじゃん!!
完璧俺の落ち度じゃん!!
てか俺頼稀に殺されない!?
だって頼稀は希のことそう言う意味です、すす……うわあぁああああ!!ごめんなさいぃいいい!!
「ふーん…。じゃあ何から逃げてたんだよ、犯人さん?」
「べ、つに…、今のはあくまで例えであって本当に逃げてたわけじゃ…」
「恍けんな。風魔の部屋から戻って来た時のお前は明らかに挙動不審だった。……まるで、他人の秘密を盗み見た盗撮魔みたいにな」
「そ、そう…?」
ぎゃああぁあああ!!
無駄に図星付かないでお願いだから!!
普段空気読めるくせに何でこう言う時だけ読んでくれないんだよ!?
そんな文句も口には出せないまま喉の奥へと沈んでいった。
……何でって。
「―――、」
会長のその冷たい指が俺の頬をするりと撫でた。
な、に…。
バッと反射的に顔を上げると、すぐそこに会長の顔があって驚いた。
「……顔あっつ」
「っ!?」
ちっっっか…。
これで顔が熱くならんとか無理でしょう。
真っ赤に染まっているであろう俺の顔を見て満足げにほくそ笑む会長に、俺は叫び出したい気持ちで一杯だった。
「は、なして」
「図星だったか?」
この人、絶対面白がってる。
自分の顔が国宝級並みに良いのを分かった上で俺の反応を見て楽しんでいるに違いない。
はぁ…、勘弁してくれよ。
こっちはついこの間会長への気持ちを自覚したばっかなんだぞ。
そんな人間に対するおふざけにしては悪質過ぎんだろう。