歪んだ月が愛しくて3
ガチャ
玄関のドアを開けると、そこには私服姿の希が難しい顔をして立っていた。
口元をきゅっと固く結んで、睨み付けるような視線が突き刺さる。
そして…、
「お願い!俺が女だってことは皆に黙ってて!」
………は?
「え、それだけ…?」
てっきり罵声を浴びせられると思っていた俺は希の言葉に拍子抜けして素っ頓狂な声を出すと、逆にきょとんとした目で「え、それだけだけど?」と返された。
いや、………は?
そんな不思議そうな顔されてもこっちの方が不思議だわ。
「それだけって…、もっと他に何か言うことあるでしょう?」
「え、あったっけ?何々?」
「いや、そこで真剣に悩まれても困るわ!こっちはマジで言ってんだよ!」
「俺もマジで聞いてんだよ!教えてよ!」
「いや何でだよ!?寧ろ俺の方こそ教えて欲しいわ!何で女の子の希が態々男装なんかしてこんなところにいるんだよ!?」
そこまで言ってハッと我に返る。
自分の失言に「ああー…」と頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「……嘘。ごめん、今のは忘れて」
「………」
「てか、何かごめん。逆ギレみたいな感じになっちゃって。本当は俺が謝んなきゃいけないのにな…」
「俺の着替えを覗いたこと?」
「覗いたつもりはない……けど、ごめん。昨日何も言わずに逃げちゃって…、謝れなくてごめん」
「……いいよ、気にしてないから」
そう言って希は俺と視線を合わせるようにしゃがみ込んで「まあ、タダじゃないけどな」と無邪気に笑った。
……いや、待って。
「気にしなきゃダメでしょう。てか、俺が言うのも何だけど希ちょっと無防備過ぎない?いくら何でも鍵掛けずに着替えんのは危ないって。しかもリビングなんかで…」
「あははっ、それ頼稀にもしょっちゅう言われてるやつ」
「だろうね…」
いくら頼稀でも女の子……じゃなくて、好きな子のそんな姿誰にも見せたくないに決まってんじゃん。それも自分以外の野郎なんかに。