歪んだ月が愛しくて3



立夏Side





「ねぇ、腹ごなしに射的やらない?」

「射的?」



葵達と別れた後、未空はお目当てのたこ焼きやら焼きそばやらを買い込んだかと思えばペロリとそれらを平らげ、今度は射的をやりたいと言い出した。
でも断る理由もなくて、俺は未空に引っ張られるまま人混みの中を進んで行く。
ぐいぐいと引っ張られるまま辿り着いたのは、幸いにもまだ人がそんなに並んでなかった射的屋だった。景品は人形やらお菓子やらありきたりなものが並んでいた。



屋台のおっちゃんが「おう、いらっしゃい!」と快活な笑顔を俺達に向ける。
列の最後尾に並んで自分達の番を待つ。俺達の前には3人しか客がいなかったため順番が回って来るのにそう時間はかからなかった。



「おっちゃん2人分ね!」

「あいよ!400円だよ!」

「はい!」



未空が俺の分のお金も合わせて100円玉4枚をおっちゃんに手渡す。
気前良いね…、なんてこの射的だけの話だったらそんな軽口叩けたんだけど、どう言うわけか未空は祭りに来てから俺に一銭も払わせてくれなかった。自分が食べる物もだよ。理由を聞いたら「だってデートだよ!デートと言ったら彼氏が払うのが普通でしょう!」と訳の分からない持論を述べられた。
いや、そんな普通知らねぇよ。
援交じゃあるまいし今時どっちかが払うとか考えが古過ぎる。
てか、これが本当にデートで未空が彼氏だとしたら俺も彼氏だからね?俺の性別忘れんなよ?
まあ、反発して駄々捏ねられたくなかったから適当にスルーしたけど、そんなわけで今日のデート?は未空の奢りらしい。ごちです。



「何狙おっかなー」



そう言いながら未空は二つ並んでいた銃の右側の方を選び先端に弾を詰めた。
俺も目の前の銃に手を伸ばしてぐるりと獲物を見渡す。
特に欲しいものはなかったが、ここは無難にお菓子でも狙って未空にあげようかな。



「ああ〜…」



隣では既に未空が撃ち始めていたが、意外と難しいらしく落胆した声が聞こえて来た。



「また当たんなかった…」

「ハハッ!坊主一番遠くの奴狙ってるだろう?悪いこたぁ言わねぇ、あれを狙うのはやめときな。あれは慣れてる俺でさえ中々当たんねぇからな」

「何それ!そんなの初心者が当たるわけねぇじゃん!」

「おっちゃん、取らせる気ないっしょ?」

「んなことねぇよ。こうして他の景品と一緒に並べてんだから落ちりゃお前さん達のもんさ。でもあの配置を見ても分かるようにあれはうちで一番の品だから取り辛ぇようになってんのさ」



おっちゃんの言う通り、未空が狙っていたものは小さい上に結構奥の方にあるため撃ち落とすのは中々難しそうだった。
それでも未空は「絶対当てる!」と意気込んで銃を構える。
たかが景品にそこまで入れ込むか…、と思って何となく未空が狙っている獲物を視界に入れた。



「……砂、時計?」



掌サイズのそれは金縁の砂時計だった。
一見普通の砂時計かと思えば、よく見ると結構凝ったデザインのもので砂の代わりに雪の結晶のようなものが入っていた。
屋台の景品とは思えないほど作りが凝っているそれに思わず首を傾げた。



「ハハッ、綺麗なもんだろう!知り合いから譲ってもらったもんなんだが、うちには女子供もいねぇし男所帯の中で飾って置くにはちと勿体ねぇ気がしてな。だから景品にさせてもらったんだよ」

「確かに綺麗だけど…」

「何でもこれは幸運の砂時計らしくてな。知り合いが言うにはこれを部屋ん中に飾って置くと良い運気がどんどん入って来るんだそうだ」

「へぇー」



嘘くさ。どこのインチキ占い師だよそいつ。

俺だったらそんな怪しいもん絶対置きたく…、



「スッゲー!マジで幸運の砂時計じゃん!俺ぜってー欲しい!」

「そこまで言うならもう止めねぇよ!残り3発、頑張れよ坊主!」

「おう!」



……うん。まあ、考え方って人それぞれだもんね。

未空のそう言うところ嫌いじゃないよ、俺。


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