歪んだ月が愛しくて3
未空は慎重に残りの3発を打っていたが、獲物に掠ることなく壁に激突して終わった。
残念そうに肩を落とすものだから思わず苦笑を零した。
「そんなに欲しかったの?」
「だっておっちゃんが幸運のラッキーアイテム的なこと言うんだもん。そりゃ欲しいでしょう。それに普通に綺麗だったし、何か……自分でもよく分かんないんだけど欲しかったんだよね…」
「………」
名残惜しそうに砂時計を見つめる、未空。
チラッと、未空の視線の先を目で追う。
砂時計はかなり距離がある上に重さだってそれなりにあるはずだ。
あれを落とすなんてほぼ無理だろう。
でも未空がそんなに欲しいなら…、その一心から弾を込めた銃を構える。
そんな俺の背中に誰かがぶつかった。
「あっ、兄ちゃんごめん!」
その声に振り返ると、小学生くらいの男の子が地面に尻餅を付いて倒れていた。
何で…と思いながら一旦銃を置いて男の子に手を伸ばした。
「そっちこそ大丈夫か?何で倒れて…」
そう言い掛けた時、黒い影が男の子に覆い被さった。
「おっ、こんなとこで射的やってんじゃん。ちょっとやって行こうぜ」
「でも大した景品置いてねぇぞ。全部ガキ向けのおもちゃと菓子ばっかだし、せめて1カートンくらい置いてねぇとな」
「ショッボ」
「ねぇ、だったらここの景品全部取り切っちゃおうよ。どうせ子供向けなんだから簡単でしょう?」
「的屋荒らしかよ(笑)」
「確かに暇潰しには持って来いだな」
チラッと視線を上げて確認すると、二十代前半くらいの2組の男女が列にも並ばずに偶々空いていた射的台へと割り込んで来た。
倒れている男の子に目もくれずに平然と割り込む彼等を見ておっちゃんは「おいおい、順番は守ってくれよ」とやんわり注意するが、その程度の苦言で大人しくなるような連中ではなかった。
「あ?順番だぁ?空いてる台に入って何が悪いんだよ?」
「誰も並んでないんだから入っても良くない?」
「てか、こんなショボい射的誰もやりに来ねぇだろう」
「キャハハハッ!確かに!おじさん、もっとお客さん欲しかったらもう少しまともな景品チョイスした方がいいよ!」
しかも優しく諭してくれたおっちゃんの機嫌を逆撫でするようなことまで言う。
空気読めないのかコイツ等?
まあ、おっちゃんには悪いけど、俺的にはおっちゃんに対する発言よりも男の子にぶつかっといて謝りもしないところにムカついてんだけどね。
「おい!お前等何ズル込みしてんだよ!この子が先に並んでたのが見えねぇのかよ!?」
そんな怒声と共に、未空は俺と男の子を庇うように彼等の前に立ちはだかる。
どうやら未空も俺と同じことを考えていたようだ。
「あ?何だテメー?大人同士の話にガキがしゃしゃり出て来てんじゃねぇぞ」
「ガキはお家に帰っておねんねしてな」
「え、待って…。この子普通に格好良いんだけど…」
「君いくつぅ?中学生くらい?お姉さん達と一緒に遊ばなぁい?」
「ガキガキ煩ぇんだよ!そんなに自分達が大人ってアピってるくせに最低限のルールも守れねぇのかよ!この子が先に並んでたんだからお前等はその後ろに並べって言ってんだよ!」
「あははっ、正義のヒーローにでもなったつもりか?」
「俺達よりそのガキが先に並んでたって証拠でもあるのか?あるなら見せてみろよ?」
「証拠がないならどっちが先に並んでたのか分からないもんね」
「っ、……どっちがガキだよ」
確かに。
子供じみた発言に呆れて物が言えない。
でも男の子は未空達のやり取りを見て「お兄ちゃん大丈夫かな…」と不安げな声を漏らす。
そんな男の子の不安を和らげてやりたくてポンポンとその背中に触れた。
「大丈夫。あのお兄ちゃん強いから」
そう言うと不安げな男の子の目が大きく見開いた。
腕っ節の強さは関係ない。
少なくともこんな連中に屈するような人間ではないと言うことだ。
ふと周囲を見渡せば、いつの間にか野次馬共が群がっていた。
見せ物じゃないってのに、暢気に見てる暇があったら仲裁に入るなり誰か呼んで来るなりしろよな。
……まあ、この場合呼ばれて困るのは俺だけど。