歪んだ月が愛しくて3



「助かったよ。ありがとうな坊主」

「別に俺は何も…。あ、店の銃勝手に使ってすいませんでした」

「いいって、そんなの気にすんなよ。こちとらあの連中のせいで商売上がったりだったから、坊主に手も足も出ない連中を拝めてスカッとしたぜ」

「そんな問題児だったの?」



あれが?

そう言えばさっき“青龍”がどうのこうのって言ってたけど、あの“青龍”のことか?



「まあ、不良に成りきれない半端もんだけに上もそこまで奴等を重視してなかったから、その分こっちにツケが回って来てたんだよ」

「成程…」



アイツらしい…。

でもそのせいでこっちに火の粉が飛んで来たかと思うと無意識に舌打ちが溢れた。



そんな思考はグイッと下から服を引っ張られたことによって遮られた。



ん?何だ?



「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」



突然のそれに一瞬フリーズする。



だって、その言葉は俺がもらうべきものじゃない。



お礼を言うべき相手は俺ではない。



「……別に、俺は何もしてないよ」



ポンと、男の子の頭に手を乗せる。

そして未空のことを指で差して、こう言った。



「お礼ならこのお兄ちゃんに言ってくれ」

「……へ?俺?」



当の本人はポカンとした顔をしていた。

無意識ってこわ。



「だって間違ったことに真っ先に声を上げたのも、君のために怖いお兄さん達に立ち向かったのも、ぜーんぶこのお兄ちゃんなんだから」

「………」



確かに最初は男の子にぶつかっといて謝りもしないあの連中にムカついたけど、結局俺は自分から動くことを躊躇して傍観することを選んだ。奴等が未空に手を上げようとしなければ事を荒立てるつもりはなかった。つまり、俺は天秤に掛けたんだ。自分の平穏を守るためだけに理不尽な暴力に目を瞑った。そんな俺に“ありがとう”なんて…、見当違いにも程がある。



見ていて可哀想になる。

素直過ぎるのも考えものだと思う。



案の定、男の子は素直に「茶髪のお兄ちゃんもありがとう!」と未空への感謝の言葉を口にした。
そんな真っ直ぐな言葉と眩しい笑顔に未空は「お、おう…」と若干押され気味だったが、その顔は恥ずかしげに俯いていたためすぐに照れ隠しだと分かった。



「でも眼鏡のお兄ちゃんが何もしてないってのは違うと思うよ」

「え、」

「助けてくれてありがとう!お兄ちゃん達すっごく格好良かったよ!」



目がチカチカするような満面の笑みでそんなことを言って、男の子は両親らしき大人の元へと走って行ってしまった。



……参った。これは参った。

何だあの笑顔?眩し過ぎんだろう。



「……何か、子供って凄いね」

「うん…」



俺にもあんな純粋な時があったのかな。……いや、なかったかも。



「ありがとう、か…」



そんな独り言を漏らした未空は男の子の後ろ姿を呆然と見つめていた。



「………」



未空も未空で思うことがあるのかもしれない。

それが何なのか、俺には分からないけど。


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