歪んだ月が愛しくて3



「テメーどこのもんだぁ?藪から棒に喧嘩売って来るとはいい度胸してんじゃねぇか」

「ねぇ、こんなところで何してんの?スーツでお祭りってスゲー目立つね、違和感しかないよ」

「無視してんじゃねぇぞクソガキ!」

「はぁ…」



……最悪だ。



ナツに対して平然と話し掛ける未空に、ひくっと口元が引き攣る。
怖い物知らずのその神経に言葉を失う。
だってまさか自分から話し掛けるとは思わないじゃん。
皆で東都に遊びに行った日、俺がヤエと会っている間に何があったのかは知っている。
でもいくらナツとは初対面じゃないからって相手は本物のヤクザなんだよ?しかもナツの隣には見た目厳つい松田さんがいるんだよ?しかも若干喧嘩売ってない?神経図太過ぎてバカになってんじゃないの?
それはナツの方も感じたみたいで、未空に対して話し掛けんなオーラを微塵も隠そうとしない。寧ろ分かり易く全面に出してるんだろうな。



「このハゲのおっさん誰?この人も八重樫の人?」

「誰がハゲじゃぁああ!!スキンヘッドって言えやクソガキ!!」

「まさかこの人がヤエって人なんじゃ…」

「おいっ、何若のこと馴れ馴れしく…「だよね!この人どう見ても三下っぽいし!」

「ぶっ殺すぞテメー!?」



それに加えて松田さんと未空の噛み合ってない会話に鬱陶しそうに深い溜息を吐き出した。



まあ、気持ちは分かるんだけど、そこまで邪険にしなくてもいいんじゃない?

未空は兎も角、松田さんが可哀想じゃん。

普段ヤエに無茶振りされてんだから偶には優しくしてあげてよ。



「あーあ、いけないんだ。ヤクザが一般人掴まえてぶっ殺すなんて言っちゃ。お巡りさんに捕まっちゃうよ?」

「捕まっちゃうよじゃねぇんだよ!こちとら天下の八重樫組だぞ!んなヘマ誰がするかよ……じゃなくてっ、誰なんだよテメー等!?何普通に話し掛けて来てちゃっかり会話続けてんだよ!?」

「今更(笑)?」

「……遅ぇよ」



本当にね。



「俺、ヤクザってナッちゃんさんしか会ったことなかったけど、ヤクザって結構面白いんだね」

「誰がナッちゃんさんだ。気安く呼ぶな」

「じゃあなーさん?なーさんって見た目格好良いから大人っぽく見えるけど結構歳近いでしょう?喋ると分かるね」

「訂正。気安く話し掛けんな、バカが感染る」

「えーん、ヤクザが怖いよぉ。リカ助けてぇ〜」



どこが?

全然怖そうに見えないんだけど?



未空は下手な嘘泣きをしながら俺の腕に自分の腕を絡めてナツ達を見据える。



「ナツ、テメーの知り合いか!?何なんだよ、この礼儀のなってねぇガキ共は!?」

「人違い」

「この間知り合ったんだよね。あの時は俺のリカがお世話になりましたぁ」

「………」



挑発するかのような口調で、見せつけるように俺に密着する未空がクスッと笑う。





「―――ま、もうあんな目には絶対合わせないけどね」





するりと、未空は俺の頸に手を這わせる。

思わずビクッと跳ねた肩にご機嫌な未空の顎が乗る。





……ああ、こう言うところなんだろうな。



普段見ることのない覇王の仮面を被ったその姿は誰かさん達を容易に想像させた。



良いところも、悪いところも、全部あの人達の受け入りか。





「……ナツ、喧嘩すんなら他所でやって来い。俺を巻き込むな」

「しねぇよ」





不意に鳶色の瞳と目が合う。



何か言いたげなその瞳は真っ直ぐに俺を見つめて、隣の未空なんて眼中にないって感じだった。





「……少なくとも、ここではな」

「………」





鳶色の視線から逃げるように頭に付けていたお面で顔を隠した。
するとそれに気付いた松田さんが俺の顔を凝視して「ま、さか…」と弱々しい声を漏らした。
徐々に青褪めていくその顔がタイムリミットを知らせた。



時間の問題とは思ってたけど、案外早かったな。

まあ、未空が喧嘩売ったのは予想外だったけど。


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