歪んだ月が愛しくて3



「それで?最初の質問に戻るけど、何でヤクザがこんなところにいるの?」

「あ、あー……それは、だな…」

「……何急に口籠もってんの?天下の八重樫組じゃなかったの?」

「っ、そ、それは、今は忘れろ!いや、聞かなかったことにしてくれ!」

「はぁ?」



何言ってんのコイツ?と言いたげな顔で松田さんに対して蔑むような視線を送る、未空。



(今更…)



俺の存在を認識した途端、こんなにもあからさまに態度変えちゃダメでしょう。

本当、松田さんってヤクザに向いてないんだよな。



呆れたように溜息を吐いて、ナツは渋々未空の問いに答える。



「……見回りだ」

「見回り?」

「ここは八重樫のシマだからな。治安維持も仕事の内だ」

「ふーん、ヤクザも真面目に仕事してるんだ。てっきり未成年のガキ捕まえて金巻き上げることしかしてないのかと思っちゃった」

「壊したもんを弁償させただけだ」

「倫理観とかないわけ?相手は未成年なんだよ?」

「ないな。それが仕事なら完遂するまでだ」

「うわっ、サイテー」

「随分と根に持ってんだな。自分がされたことならまだしも他人のためによくそこまで執念深くいられるもんだ」

「確かに他人だよ。でもそれは血が繋がってないってだけで何とも思ってないってこととイコールじゃないから」

「へぇ…」



挑発とも取れる未空の言葉に、鳶色の瞳が妖しく光る。



……嫌な予感がする。



いくら冷静を装っていても、本来好戦的な性格のナツがここまで煽られて黙っていられるはずがない。

それも相手が未空なら尚更だ。



そう思った時には既に遅く、身を引こうとした瞬間にグイッと思いっきり手首を引っ張られた。



え、と間抜けな音が口から漏れた。





「じゃあ、どう思ってるわけ?」





ナツの綺麗な顔が目前に迫る。



咄嗟のことに何の反応も出来ず、このままナツの胸に顔から突っ込むと思った。





でも、





「っ!?」





それとは反対方向。

後ろから首にがっしりと回された腕に思いっきり引き寄せられてしまった。

ぽすっと、その胸板に背中から飛び込んだと思えば、逃さんとばかりに後ろからぎゅうっと抱き締められた。





「―――仲間だよ。そんでもって俺のスゲー大事な人」





……だから、そう言うとこだってば。





耳元で聞こえた真剣な声色に固まることしか出来なかった。



こんなの、卑怯だ。



妙に力強い腕の中からその持ち主を見上げれば、そこにはいつもの無邪気な笑顔なんてどこにもなくて、おふざけなしの真剣な顔でナツのことを睨み付けていた。
ナツもナツで普段のクールな表情とは打って変わり、未空に煽られまくったせいで目元を三日月に歪めて愉快そうに口角を上げていた。
ヤバい。ナツの奴いつの間にかスイッチ入ってやがる。
マジかよ勘弁してくれよ。今の俺はそう易々と対処出来ねぇんだぞ。



「―――だそうだけど?」



いや、こっちに振んなよ。



何なの?俺を辱めたいわけ?

これ以上俺の羞恥心を刺激しないでくんない?



「ちょっと、何勝手にリカに意見求めてんのさ。言っとくけど、リカの意見なんて関係ないから」

「え、関係ないの!?」

「ないよ。だってリカに何言われたってそんな簡単に揺らぐ気持ちじゃないもん」

「、」

「嫌って言われても、拒絶されても、俺にとってリカがそう言う人だってことはちゃんと覚えといて」



……勘弁してくれよ。



だから何でそんな恥ずかしいことペラペラ言えちゃうんだよ。



もう本当嫌…。

恥ずかしくて聞いてられない。



きっと未空には俺を辱めるつもりはこれっぽっちもないんだろうけど、聞かされてる方はメチャクチャ恥ずかしいんだよ?



分かってんの?



それを聞かされてる俺が今どんな気持ちなのか?



恥ずかしいって気持ちと同じくらい嬉しいなんて思ってることに、きっと未空は気付いてない。



お面を被ってて良かった。

こんな顔、誰にも見せらんねぇよ。



お面を付けたままその上から両手で顔を覆えば、未空は「えっ、そんなに嫌だった!?」と見当違いなことを喚き出した。
これはこれで違う意味で恥ずかしい。忘れてるかもしれないけど、ここ祭りのど真ん中だからね。そこ忘れないでね。


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