歪んだ月が愛しくて3



ふはっと、乾いた笑みにお面から手を離す。



「ウケんなお前。何その傲慢さ?俺が見て来た人間の中でもお前みたいな奴は早々いねぇよ」

「それって褒めてる?」

「いや、最高に気持ち悪ぃよお前」

「………」

「傲慢で、貪欲で、それでいて愛されたくて仕方ない。お前みたいな人間が一番嫌いだね」



態と傷付ける言葉を選んでるくせに、その顔は泣きそうなくらい悲痛に歪んでいた。
「ハチ以来だわ、こんなムカついたの…」と、ナツはそれを誤魔化すように冷たく吐き捨てた。



「お、おい…」



そんなナツに松田さんは躊躇いながらもやんわりと制止する。



……そう、だな。

確かに未空はナツの嫌いなタイプの人間かもしれない。

でもそれは単に嫌いってことじゃない。



所謂、同族嫌悪って奴だろう?



知ってるよ。



だから反射的にナツに手を伸ばそうとした。



でもナツは腕時計の時間を確認した後「……時間だ」とだけ告げて、俺と未空の横を平然と通り過ぎた。
その顔には得意の無表情を取り繕っていたけど、本心では誰かに縋りたくて仕方ないように見えた。



(ごめんな…)



何も出来ない、不甲斐ない飼い主で。



そして数歩進んだ後、ナツはピタッと足を止めた。



「お前達もとっとと帰れ。―――“化け犬”が出る前にな」



背を向けたまま一度もこちらを振り返ることなく、ナツはそう言い残して今度こそ松田さんを連れてどこかに行ってしまった。



「ば、化け犬…?化け猫じゃなくて?」

「……行こう」

「え、行くって…、ちょっちょっとリカ!待ってよぉ!」



後ろから聞こえる未空の足音を確認しながら、脳裏を埋め尽くすナツの言葉に心拍数が上昇していく。



(“化け犬”、か…)



それが何を指すのか、すぐに分かった。



分かったけど、理解したくない自分がいた。



ああ、だからナツはあの場に留まっていたのか。
いつもみたいに無視すればいいのに律儀に未空の質問に答えたのも、松田さんに好き勝手喋らせてたのも、そのことを俺に忠告するためだったわけね。



だとしたら長居するわけにはいかない。

未空には悪いけど早々に切り上げて学園に帰った方が良さそうだな。



(アイツがここにいるなら尚更…)



俺はまだ、アイツに会うわけにはいかない。



会えるわけがない。



たった一つのかけがえのないものすら守れなかった俺に、アイツと会う資格なんてないのだから。





「―――」





小さな、小さな声。



誰にも聞こえない、自分にも聞こえないそんな小さな声で、俺はアイツの名を口にした。


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