歪んだ月が愛しくて3
「ねぇ、ちょっとあれ…っ」
「やだ喧嘩?」
「どうせ酔っ払い同士の喧嘩でしょう。さっきもロータリーのところで派手にやってたし」
やっとの思いで人混みを抜けると、不意にそんな声が聞こえて来て思わず足を止めてしまった。
そんな俺を不思議そうな目で見つめる未空を無視して、俺は彼女達の視線の先に目を奪われていた。
人気のない雑木林に続く、細い道。
確かその先には今は使われてない施設がいくつかあったはずだ。
既にそこには喧嘩の当事者らしき人物は見受けられなかった。
喧嘩なんて珍しくない。
繁華街も近いし、祭りではよく見る光景じゃないか。
……でも、この先に何かある。
何となくそんな気がして未空の手を引いて足を速めた。
「えっ、ちょっとリカ!帰るんじゃないの!?」
帰るよ。
帰りたいよ。
一刻も早くこの場から立ち去って学園に戻らなきゃ行けないのに、どう言うわけか俺の直感が訴えて来るんだ。
―――この道を進め、と。
そんな不確かなものを信じるなんて自分でもどうかしてると思うよ。
きっと碌なことない。
でも、これも直感だけど、この先に何があってもなくても行って後悔するより行かないで後悔する方が後味悪い気がしたんだ。
「ねぇ、どこに向かってるの!?」
細い一本道をただ只管走る。
どこって…、そんなの俺だって分からない。
自分の直感に従って足を進めると、どこか大きな施設の駐車場に出た。
街灯に照らされた駐車場には数台の車が駐車していた。
ゾクゾクと、背筋に悪寒が走る。
行きたくないけど、行かなきゃ…。
そう思ったら未空の手を離して悪寒のする方へ走り出していた。
「待ってよリカ!」
後ろから未空の声が聞こえるけど、今は構っていられない。
この先に何かがある。
自分でも何が何だか分からないけど、公平の時と同様のものが俺を目的地へと誘う。
(急がないとっ!)
駐車場を出て一気に駆け出すと、すぐ近くに廃工場があった。
何棟もある工場は倉庫街のように入り組んでいるようで、その出入口には工事中の看板と出入りを禁止するためのチェーンが引かれていた。
その奥から僅かに聞こえる金属音に悪寒が増していく。
後ろから未空の足音が聞こえる。
その足音を待つことなく更に足を速めると、鈍い金属音と呻き声が聞こえて来た。
行き着いた音の先には、信じられない光景が広がっていた。