歪んだ月が愛しくて3
「だ、誰だ…っ」
その声に、ハッと我に返る。
怯えた声が一丁前に威嚇しているのが分かる。
(随分と男前になっちゃって…)
「もう大丈夫。安心して」
地面に蹲る彼等に近付いて出来る限り優しい口調で声を掛ける。
月明かりの下、ゆっくりと俺の姿が晒される。
彼等―――自称俺の弟子達は俺の姿を視界に捉えた途端、一瞬息を飲んで目を丸くさせた。
岩城くんと、野球部3人組か…。
少しの静寂の後、誰かが声を漏らした。
「あ、にき…」
「なん、で…っ」
何で、か…。
そんなの俺にも分からない。
ただ自分の直感に従って来てみたらこんな状況になっていた。
寧ろ何でこんな状況になってんのか説明して欲しいのは俺の方だ。
でも今はそんなことよりも…、
「無理して喋んなくていい。動けないでしょう?怪我の状態が酷いからとりあえず病院に運ぶよ。岩城くんは動ける?」
「は…、はいっ!」
拳銃を突き付けられていた岩城くんは彼等の中で比較的軽症に見えた。まあ、拳銃なんて一発アウトなもん突き付けられたら何も出来ないのが普通だろう。
反対に野球部3人組の怪我は酷かった。岩城くんを守るために身体張って踏ん張ったのが見て分かる。
本当、この短期間で何があったのかね。
西川くんをイジメてた時とはエライ変わりようじゃん。
「兄貴…、助けてくれて、ありがとうございました…」
「それはいいんだけど、何で岩城くん達がこんなところにいるの?遊びに来てたの?」
「はい。それで我孫子さんと逸れてしまって捜してたんです…」
「アイツもここに来てんの?」
「下町の祭りを体験したいと言って、それで俺達4人が案内役として着いて来たんです」
「……その途中でコイツ等に絡まれたってこと?」
「はい…」
「我孫子と連絡は取った?」
「俺…、いや俺以外のメンバーもなんですけど、皆我孫子さんの連絡先を知らないんです」
「知らない?」
その疑問に岩城くんが「あの人、秘密主義なところがありまして…」とボソッと呟く。
確かに我孫子が秘密主義ってのは頷ける。
俺もアイツのことはよく分からないし、周りもGDのリーダーってことくらいしか言っていなかった。
ミスったな。こんなことならアイツのこともっとちゃんと調べておけば良かった。
「ゲホッ、ゲホ」
「だ、大丈夫か仁木っ!?」
とりあえず我孫子のことは後だ。
今は一刻も早く彼等を安全な場所に避難させよう。
でもどうする?
病院はあそこにするとしても、足を確保しないと運べない。
彼等の中で自力で歩けるのは岩城くんくらいだろうから俺達で3人を担いで行くのは物理的に無理だし、ここは誰かに来てもらわないと…。
その瞬間、何かが視線の端を横切った。
マズイ!!
「伏せろっ!!」
そう強く叫んだと同時に、突如現れたスーツ姿の男がこちらに向けて拳銃を構えた。
咄嗟に岩城くんの身体を押し退けて前に出る。
「死ねぇええええ!!」
「、」
男が用心金の中に指を入れた瞬間、別の男から奪った拳銃を取り出して男の顔面目掛けて突き付けた。
それでも向こうの方が数秒早い。
―――やられる。
そう思いながらもどうすれば後ろの彼等を守れるのか、必死で思考を巡らせていた。
しかし俺の指先が引き金に触れる直前、男の身体が地面に崩れ落ちた。
ドサッと、月明かりの中、砂埃が星屑のようにキラキラと反射する。
「―――よお、楽しそうなことしてんじゃねぇか」
そんな幻想的な雰囲気の中、俺の前に現れたのはそんなものとは無縁に近い鮮やかな浅葱色だった。
「ヤ、エ…?」