歪んだ月が愛しくて3
「それで、何でお前はこんなとこにいるんだよ?」
「偶然近くを通ったらお前の声が聞こえて…」
「惚けんな。そんな都合良く近くを通り掛かるかよ。みく…、俺の連れと会ったのか?それとも…」
そこに俺の名前を叫びながらナツと松田さんが現れた。
「しっ…「シロ無事っ!?」
ナツは松田さんの言葉を遮り俺の元まで一直線に走って来ては、俺の身体にペチペチと触れて怪我の有無を確認する。
「大丈夫。来てもらって悪いな」
「全然悪くない。寧ろ呼ばれなかったら拗ねてたよ」
「そりゃ良かった」
「マジだからね」
ぎゅうっと、ナツは骨が軋むほどの強い力で俺を正面から抱き締める。
可愛い奴め。ちょっと痛いけど。
「で、この連中は何?シロのストーカー?」
「ほんっと君達そっくりね〜」
思考回路が瓜二つ。
やっぱりヤエに預けたのは間違えだったかな。
「あ、兄貴…、この人達もお知り合いですか…?」
「あ?何お前?兄貴ってまさかシロのこと言ってんの?何勝手にシロの舎弟気取りしてるわけ?死にたいの?」
「、」
「コラ、口が悪いぞナツ。俺の学校の先輩なんだからな」
「先輩?コイツが…?」
「コイツじゃない。岩城くんだよ」
「……どうでもいいよ名前なんて。それよりも何でそのセンパイとやらがこんなとこにいるわけ?しかも他の3人はゴミ同然だし、一体ここで何があったわけ?」
「ちゃんと説明するよ。ナツにも手伝ってもらいたいからね」
「シロの命令なら何でもやるよ」
「ふはっ、頼もしい。そんじゃまずは怪我人を安全なところに運びたいんだけど手伝ってもらおうかな」
「……車に積んで来る」
「荷物じゃないからな?」
「分かってるよ(俺にとっちゃシロ以外は全部荷物みたいなもんだけど)」
「あの、自分は何を…っ」
「ああ、松田さんはそこで伸びてる連中をお願いします。いつものところで丁重に扱ってやって下さい」
「っ、しょ、承知しました!」
ナツと松田さんは俺の指示通りに動き出した。
その間に俺は小さな声でヤエに話し掛けた。
「さっきこの近くで複数の単車の音がした。あれはお前じゃないのか?」
「生憎俺は徒歩だ。手配したのも普通のワンボックス2台と帰りの車1台だけだ」
「じゃあ、あの音は一体…」
ヤエじゃないとしたら偶々近くを走っていた無関係のものだったのか?
それとも…。
「ただ俺がここに着いた時、倉庫の前に鍵の付いた単車が1台置いてあったぞ。そこで伸びてる誰かのじゃねぇのか?」
「だといいけどな…」
「あ?どう言う意味だ?」
「今は何とも言えねぇけど、何か気持ち悪いんだよな…」
説明の出来ないことが少しの違和感となって俺の中でモヤモヤと燻っていた。
偶然や気のせいならそれでいい。考え過ぎだと笑ってくれ。
ただこう言う時は決まって偶然や気のせいでは終わってくれなかった。
だから余計に考え過ぎてしまうのかもしれないが。
「気持ち悪いって…、お前つわりか?」
「ぶっ殺すぞ」
「何でだよ。テメーがつわりで気持ち悪いって言うから気を紛らわせてやろうと思ったんじゃねぇか」
「だからつわりなわけねぇだろうが。俺の性別なんだと思ってんだよ」
「ふたな…「死ねカス」
不意に俺とヤエを呼ぶ声に振り返る。
松田さんは倉庫の前に止めたワンボックスの横に立って「準備出来やした!」と高らかに声を上げた。
そんな松田さんの隣で、ナツは至極迷惑そうな顔をして「うっさ。そんな大声出さなくても聞こえるよ。シロを老人扱いすんな」と憎まれ口を叩く。
俺って老人扱いされてたのか…と内心思いながら、俺はナツと松田さんの元に向かって足を進める。
そう言えば岩城くん達にヤエ達のこと口止めするの忘れてたな。まあ、さっきはそんな余裕なかったから仕方ないけど、後でナツか松田さんに念を押しといてもらおう。
そんなことを考えていると、後ろから俺の肩にヤエの腕が回された。
「まあ、用心しといてやるよ」
「あ?」
「お前の勘はよく当たるからな、悪いこと限定で」
「……ああ」
用心するに越したことはない。俺の場合は。