歪んだ月が愛しくて3



「未空が、養子…」



そんな…、俺と一緒?



いや、俺なんかと一緒にしたら未空に失礼だ。
どんな経緯で神代家の養子に入ったか知らない俺が一緒なんて言葉で一括りにしちゃいけない。

でもこれで分かった。
中等部から聖学に入ったと言っていた時のあの煮え切らない感じの正体。
俺とカナの不自然さに逸早く気付いたあの嗅覚。
そして未空と葉桜先生の関係に異常なまでの過保護ぶりを見せた覇王3人。
未空が神代家の養子で会長の義弟であれば全て説明が付く。



「“仙堂”と言うのは彼奴を生んだ母親の姓。彼奴はそれを捨て切れないんじゃよ。いつか本当の母親が迎えに来てくれると今でも信じているのかもしれんな…」

「……何で、それを俺に?」

「リリーは彼奴と仲良くしてくれてるようじゃからの。それに愚孫の方とも。まあ、知っていて損はないじゃろう」

「確かに損はないけど…。でもただその話を聞かせるためだけに俺をここに呼んだわけじゃないよね?」

「フッ、賢いのリリーは。ますます惚れてしまいそうじゃ」

「あー…もうっ!そうじゃなくて!俺が言いたいのはそんな話を聞かされたって俺にはどうすることも出来ないってこと!分かってて話逸らそうとしてるでしょう!」

「はて、何のことじゃ?」

「惚けないでよ。何を期待してるのか知らないけど、俺には何も出来ないよ。養子の話だって今初めて知ったのに…。それに俺は未空が自分から話してくれるまで何もするつもりはないから。本人にもそう宣言しちゃったし」

「ほお?思っていた以上に仲が良いようじゃの。ああ、爺は寂しいぞ。昔はまもちゃんまもちゃんって言って儂にベッタリだったリリーが今は余所の男に夢中とは…」

「いくつの時の話してんのさ!俺もう15だよ!高1だよ!いつまでも子供じゃないんだからね!それに未空とはクラスメイトで同じ生徒会にも入ってるんだから仲良くなるのも必然って言うか…」

「彼奴だけではないじゃろう、リリーと仲良しなのは」

「……もしかして会長のこと言ってる?」

「愚孫の方とも随分仲が良いようじゃないか。報告は受けてるぞ」

「はぁ、報告って…。どんな報告か知らないけど、会長とはただの先輩後輩。仲は…、まあ悪くはないと思うけど」

「おや、そうなのか?体育祭の時、愚孫と手を繋いでゴールテープを切ったと報告を受けたんじゃが」

「ねぇ、その報告って必要?ただの競技の一環なんだけど」



何くだらない報告してんだよ。
もっと他に報告することがあるだろうが。
例えば……、あれ?そう言えば会長って体育祭で何の競技に出てたっけ?
もしかして俺がお題として無理矢理走らせたあの借り物しか出てないとか?まさかね。いくら会長でもそんなこと………え、マジ?
じゃあ会長は体育祭の間ずっと何してたわけ?
確か午前中は姿を見せなくて昼飯の時にひょっこり現れて…。あ、でも応援してる時に会長が屋上で葉桜先生と会ってるのを見たんだっけ。報告するとしたらああ言うのだろう。だって会長が女性と会ってたんだよ。それも2人きりで。まもちゃん的にもそっちの方が重要だろうに。まあ、あれだって報告は受けてるんだろうけどさ。
それにしても体育祭の時に紛れ込んでいた鼠は月だけじゃなかったのか。全然気付かなかった。そりゃそうか。監視か護衛か知らないけど、俺なんかに気付かれちゃ意味ないし神代の次期後継者を守るのにそんな適当な人間を使うはずないか。



……ん?体育祭?



ちょっと待てよ。
体育祭の日に聖学に侵入した鼠は、月が率いる恐極組の連中と神代家の人間。その二勢力だけだと仮定して、会長は俺を助けるために恐極組の連中と接触した。神代家の人間が24時間ずっと会長にベタ付きじゃなかったとしても、あんなイレギュラーなことをまもちゃんに報告してないはずがない。そして俺のことも。
ああ、だからあの別荘の近くでまもちゃんと再開したのか。全てはまもちゃんが作り出した必然ってわけね。ははっ、やられた。



不意に応接間のドアが開いた。



「御大様のご命令は絶対です。どんな些細なことでもこの“眼”で見たものは全て嘘偽りなく報告しております。それが神代家に生涯を捧げた私共の使命でございます」



女性特有の高い声はドアの向こうからやって来た。
ドアの向こうにいた人物は部屋の手前で深々と頭を下げ、そして顔を上げた。



色素の薄い長い髪がふわりと揺れる。



「お久しぶりでございます、立夏()



見覚えのある顔が、そこにはあった。


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