歪んだ月が愛しくて3
ナチュラルに話をスルーされた俺は、未空に手を引かれてこの部屋で一番大きいキングサイズのベッドに未空と横並びで座った。
「ねぇ、どうしてリカがここにいるの?俺のせいでリカがここに来る羽目になったってことは分かってるんだけどさ、そもそもどうして俺がここにいるって分かったの?」
「……未空が連れ去られた時、偶々俺も近くにいただろう。だからすぐに未空を乗せた車を追い掛けることが出来て、そうしたらこの家に入って行くのが見えたんだ」
「そうだったんだ…。あ、倉庫の方は大丈夫だった?俺、結局八重樫組の人達を見つけられなくてさ…。結構時間掛かっちゃったから一旦リカのところに戻ろうとしたらアイツ等に呼び止められて…。驚いたよね、あんな場面を見せられて。リカを巻き込むつもりはなかったんだけど、車に乗せられる時にちょっと抵抗しちゃったから端から見たら誘拐っぽく見えてたよね?リカもそう思ったから俺のこと追い掛けて来てくれたんでしょう?」
「うん」
「ごめん。テンパってたとは言え俺が紛らわしいことしちゃったせいでリカにまで迷惑掛けちゃった。本当にごめんね…」
「未空が謝ることは一つもないよ」
紛らわしいことをしたのは未空ではない。神代の人間だ。
あえて誘拐を装ったのは俺の危機感を煽って判断力を鈍らせ、俺をこの場所に誘き寄せることが狙いだったのだろう。
まもちゃんがこんな方法を取るとは思わなかったので昔のイメージが多少崩れつつあるが、それだけ退っ引きならぬ事情があるのかもしれないと自分に言い聞かせることにした。
「……ううん。それだけじゃなんだ」
「え?」
「俺がリカに謝らなきゃいけないことはまだあって。この家であの女と会ったってことはもう聞いたと思うけど、実は俺…、本当は仙堂未空じゃないんだ。小さい頃この家に養子としてもらわれて、一応戸籍上は尊の義弟ってことになってる…」
俯きながら小さく言葉を紡ぐ未空はまるで叱られた子供のように弱々しく見えた。
俺の手に重なる未空の手がいかないで訴えてるように思えて余計にそう見えたのかもしれない。
「今まで隠しててごめん!いつかはリカに話さなきゃって思ってたんだけどずっと言い出せなくて…。嫌な思いさせてごめん!でも俺リカのこと傷付けたかったわけじゃなくて本当に…っ」
ああ、この気持ち。
今の未空の感情が手に取るように分かる。
受け入れて欲しい。でも傷付きたくない。
話を来て欲しい。でも打ち明ける勇気がない。
そんな葛藤が心の中でぐるぐると渦巻いているのだろう。
「そっか…」
そんな状態の未空に俺が言えることは何もない。
反対に俺だったら何も聞かずにそっとして置いて欲しいと思うだろう。
だから、まだ何も聞かない。何も言わない。
「そっ、かって…、それだけ?もっと他に聞きたいことがあるんじゃないの?」
「聞きたいことはないけど言いたいことならあるよ」
「な、何…?」
ゴクッと、未空が息を飲んで俺の言葉を待つ。
「未空が無事で良かった」
強張った表情で身構えている未空を安心させるために、俺はあえて笑って未空の緊張を解そうとした。
すると未空は何故か俺の顔を見た瞬間、ガチッと固まって驚きのあまり一瞬言葉を失った。
「な、で…、何でリカは、こんな俺に優しくしてくれるの…」
ワナワナと震える口元が弱々しく言葉を紡ぐ。
「こんな俺って、どんな未空のこと言ってんの?」
「だって、俺…、ずっとリカに隠し事してたんだよ。リカがカナちんやチサさんとの関係に悩んでた時に俺は自分のことを話さなかった。あえて自分も養子だってことを隠してたんだ。口では偉そうなこと言ってたけど本当の俺はいつも自分のことしか考えられない卑怯者なんだよっ!」
俺の手を痛いほど強く握り締める未空は「そんな俺にどうして…」とうわ言のように繰り返す。
手の力は強いのに不安定で弱々しい声が今の未空そのものなのかもしれない。
この自信のなさの原因は何なのか、今の俺には分からない。
そんな俺に出来ることは未空の手を同じくらいの力で握り返すことだけだった。