歪んだ月が愛しくて3
「兄貴、一つ質問してもいいですか?」
「はい、岩城くんどうぞ」
「この夏休みはご実家に帰省されますよね?いつから帰るんですか?」
「あ、あー…夏休みね。気が向いたら実家に顔出す予定だけどまだ未定かな…。でも基本こっちにいると思うから連絡くれれば特訓に付き合うよ」
「え、いいんッスか?」
「うん、大丈夫」
大丈夫じゃなくて、ただお前が帰りたくねぇだけだろうが。
まあ、立夏が実家に帰省しないのであればこっちとしても安心ちゃ安心だが、そう都合良くいくわけがないってことは覚悟しているさ。何せ相手は立夏だからな。予想外の行動に出るのは目に見えている。
「それじゃあ連休中はその都度連絡するってことで大丈夫ッスか?」
「それでいいよ。じゃあまた…、」
ガチャ
その時、屋上の扉が開いた。
この炎天下の中、好き好んで太陽の生贄になりたい奴がまだいたのか。
そんなことを考えながらチラッと視線だけを扉の方に向けた。
屋上に現れたのは1人の男子生徒だった。
黒髪のおかっぱヘアに、誰かさんみたいな黒縁眼鏡。
(見たことはないが…)
初対面のはずだが、何故か既視感を覚えた。
ギュッと、気付けば拳を握り締めていた。
「お邪魔だったかな?」
一歩、一歩と、男はゆっくりと足を進める。
三日月型の目元と、ニンマリと歪む口元に違和感しかない。
この状況化で見せる平然とした態度が逆に不自然で仕方なかった。
七名家の一つである九條家の次期後継者と見るからにザ・不良のGDがいるにも関わらず、この男はそれらに目を向けることなく真っ直ぐにある一点を見つめていた。
「……いいえ、もう解散するところなので」
「そう。じゃあ僕がお邪魔しても大丈夫?」
「どうぞ」
男の瞳には初めから立夏しか映っていない。
その一挙手一投足を見逃さないかのように立夏から視線を逸らさない。
俺が…いや、俺達がこの男を警戒するのは当然だった。
そしてこの男の不自然さに気付いているはずの立夏が平然と対応していることにも疑念が湧く。
「じゃあ皆もまたね。お疲れ様」
「は、はい…」
「お先に失礼します」
「バイバーイ」
加えて追い払うようにGDの7人を帰らせたことも、珍しく立夏が愛嬌を振り撒いていることも気になる。
まるでこの男に対抗するかのように、仮面の下にある本心を隠しているように見えた。
……何者だ、コイツ。