歪んだ月が愛しくて3
「両手を上げろ」
警備員の指示に従い軽く手を上げる。
警備員は俺の頭のてっぺんから下に向かって順に触れて来る。
ポケットの中を確認する程度ならまだしもここまでするとはな。
徹底的にやることは悪いことではない。その点に関しては評価出来るが、但し相手は選んだ方がいい。落とし穴と言うのは見えないように隠されているから落とし穴なのだから。
「お、まえ…」
不意に警備員の手が俺の眼鏡に当たって少しズレた。
すると警備員は謝罪するばかりか俺の顔から眼鏡を外して何故か言葉を詰まらせた。心なし顔が赤い気がする。
「眼鏡を取る必要ってありました?返してもらえます?」
人の眼鏡を握り締めたまま俺の顔を凝視する警備員に流石に文句を言ってやろうとした矢先、男の口角が卑しく歪んだ。
「へぇ、人は見掛けに寄らないな。ただの貧乏臭いガキだと思ったらまさかこんな素顔を隠し持っていたとは…」
素顔?
「ああ、そうか。だから急遽帰省したってわけか。あの坊ちゃん達が珍しく帰って来た時は何事かと思ったがお前をここで囲うためだったんだな。お前どっちのコレだよ?尊坊ちゃんか?未空坊ちゃんか?どうせ朝から一発ヤって来たんだろう?」
「………」
警備員の目付きが変わった。
人を物色するような卑しい表情と下品な言動は最早警備員でも何でもない。
そんなに自分より格下を甚振って愉しいのか。俺にはその性根が理解出来なかった。
しかもこの男は俺を甚振るためだけに会長や未空までもを侮辱する発言をした。俺はそれが何よりも許せない。何が神代近衛隊だ。神代の名を持つ2人を愚弄するなんて神代近衛隊を作ったまもちゃんへの裏切りじゃないか。
「ほら、今度は後ろを向いてそこに手を付けよ」
言葉に馴れ馴れしさが増す。
俺が大人しくしていることをいいことに男の暴挙は更に大胆なものへとなっていく。
ガゼボに両手を付くと無防備な背後に男の手が這わされる。その手付きは明らかに先程までのものとは違い、俺の身体を弄るような厭らしい手付きだった。
「っ、」
「何だ?さっきまでシテたから敏感になってんのか?」
俺の耳元で囁く男の手が服の上から腰や臀部を中心に弄っているのが分かる。
この男、正気じゃない。自分の職場で、しかも相手は男子高校生だぞ。男なんだぞ。人の性癖をとやかく言うつもりはないがこれはダメだ。普通に気持ち悪い。おえ。
発言だけならまだ冗談で済ましてやれたが、ここまでされて冗談で済ましてやれるほど俺は慈悲深くない。
誰が見ても一目瞭然なセクハラ行為に男の身体を突き飛ばして距離を取ろうとした時、視界の端にあるものが見えたためもう少しだけこの耐え難い屈辱を我慢することにした。
「で、どっちが相手なんだよ?まあ、2人共顔だけはいいがまだまだ子供だからな。お前を本当の意味で満足させることは出来ないだろう。その点俺は大人だからアッチのサイズも規格外だし近衛隊で鍛えた強靭な肉体も体力もある。俺だったらその身体を余すことなく可愛がってやれるぞ」
何が大人だ、この変質者が。
いい大人は未成年の子供を引き合いに出してマウント取ったり、ましてや未成年に手出したりしねぇんだよ。
そもそも会長と未空は顔だけの人間じゃない。アッチのサイズや体力があろうとなからろうとどうでもいいけど、お前なんかよりも人として素晴らしい人達なんだよボケ。
俺が抵抗しないことを同意と受け取ったのか、男の手が胸へと移動し自身の身体を俺に密着させて来た。
胸へと移動した手を緩やかに動かしながら男の下半身がグリグリと俺の尻に押し付けられる。次第に固さを増す下半身の突起物が俺の尻と羞恥心を刺激し、同時に男の指先が胸の突起を探り当てた。
「、」
突然の刺激に思わず声を上げそうになった口元を片手で覆う。
「どうした?身体がビクついたぞ。散々生意気なこと言ってたくせに男を知ってるこの身体は快楽には抗えないようだな」
知らねぇよ。
散々好き勝手言いやがって…。
いたいけな高校生捕まえて勝手に淫乱扱いしてんじゃねぇよ。
「気持ち良いんだろう?ほら、その顔みたいに可愛く喘いでみろよ。可愛くおねだり出来たらコイツをぶち込んでやってもいいぜ?」
男の指が俺の胸の中心を集中的に攻める。
それに合わせて腰の動きも速さを増し、獣のような息遣いが俺の耳元から聞こえて来る。
何興奮してるのか知らないが、こっちは全然そんな気分じゃねぇんだよ。寧ろ気持ち悪くて吐きそうだわ。いつまでこれに耐えてればいいのか。そもそもどうしてあの人は出て来ない?この状況を面白可笑しく傍観してる意味が分からない。何か魂胆があって隠れたのかと思ったが、あっちがいつまでもこの状況を改善してくれないのであれば自分でどうにかするしかない。
もういい?殺っちゃっていいコイツ?こう言う人類の敵は滅亡するべきだよね?俺間違ってないよね?
すると男は自問自答を繰り返す俺の耳を後ろからカプッと甘噛みした。
「んんッ、」
「ハッ、イイ声出すじゃねぇか。耳だけでそんな声出すんじゃここにぶち込んだらどんな声出しちまうんだろうな?」
そう言いながら男の手がガシッと俺の尻を掴んだ。
悔しさと羞恥で色々と吹っ切れた俺は心の中でこう唱えた。
ギルティ、と―――。
「生憎、相手には困ってないのでご心配なく。そんなことよりも自分の心配した方がいいじゃない?」
「あ?どう言う…「リカっ!!」
―――え?
男の足の甲を思いっきり踏み付けてやろうと足を上げた時、“リリーガーデン”の入り口の方から聞き慣れた声が飛んで来た。
顔を上げてその人物を視界に入れようとした瞬間、結構な衝撃と共に男の身体が俺から離れて行った。
反射的に振り返ると、俺を守るように背中に隠し地面に尻餅を付いた男と正面から対峙するのは…。
「み、く…」