婚約者が浮気をしたので即別れることにしたら、溺愛されることになりました。
ニールが怒鳴った時、少々、背筋に寒いものが通り抜けてしまった。穏やかなはずの彼の本気の怒りを、そこに感じてしまったからだ。
私がこれまでに一度も聞いたことのない、ドスの利いたニールの低い声。
「もう! ニール! いい加減にしてよ。あの人と駄目になったのなら、私と結婚してって、言ったでしょう?」
「それは絶対にしないと言っただろう。だからと言って、僕と関係のありそうな女性を仕込んで、ジェマとの仲を裂こうなんて、何を考えたらそんなことになるんだ。あまりにも酷すぎる」
……え?
「だって! 私の知らないところで、ニールが結婚するなんて、絶対に許せないわ!」
「僕はお前の所有物ではない。何回同じことを言ったらわかるんだ。メアリー……だから、そういう訳なんだ。ジェマ。この子は僕の幼馴染みで、僕と結婚すると言って聞かなかったんだが……僕はジェマと結婚したいんだ。先ほどの女性はメアリーが仕込んだ女性で、僕は本当に話したこともない知らない女性だった」
必死で言いつのるニール。その右頬には、くっきりとした赤い手の痕。
「あの……ごめんなさい。混乱して……その」