婚約者が浮気をしたので即別れることにしたら、溺愛されることになりました。
 ……この人はもう、私の婚約者ではない。

 もう、この人は別れてしまった後の人なんだって、そういう胸を突き刺す長い針のような事実が痛すぎて。

「ジェマ! ああ。帰っていなかったのか。良かった!」

 え……良かった?

 その時、私はこの場面で聞くはずのない言葉を聞いて、眉を寄せてしまった。

 なんですって? どういうこと?

 まるで、ここで私に会うことを望んで居たように思えたけれど……修羅場になるしかないというのに、一体これはどういうことなの?

 それに、二人が手を繋いでいるように見えたというのは、単なる見間違いだったようでニールは彼女の手首を持っている。

 まるで無理矢理、連行されるかのような……どう考えても、仲良くしているようには見えない。

 何かしら? これって、どういう状況なの……?

「もうっ……! 離しなさいよ! ニール!」

 そして、ここに居る栗色の巻き毛をした令嬢は、大きく身体を動かしてニールが掴んで居た手を振り払った。

「メアリー。お前……今回ばかりは、絶対に許さないからな。お前がジェマとジェマの両親に説明するんだ。どうしてあんなことをしたんだ」
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