ひとつ、ふたつ、ひみつ。
スワイプした瞬間、「ほら、やっぱりただのスマホでしょ」って、言うつもりだったのに。

強い風が、髪の毛を撫でる。
ベランダの扉を、開けているからじゃなくて。

「ひっ……、ひあああっ!?」

床がない。壁がない。何もない!

スマホを持ったイケメンに手を取られ、私は空を飛んでいた。

「なっ、何これ!?」

「あ、よかった。そっちのスマホ? には、ない機能だったみたいで」

よくはないですが!?

足をバタバタさせるけど、なんの抵抗もなく空中を蹴るだけ。
私は思わず、得体の知れないイケメンに抱きついた。

「ワープ機能。大体の人は、移動距離を短縮するために使うんだけど、俺は空を飛ぶのが好きだから、見てほしくて」

なぜ初対面の相手に対してそんなイカれた選択をするのか、聞くような余裕はない。

「こ、ここ、怖いっ!」

「あ、今戻るから」

彼が画面を先ほどと逆にスワイプすると、すぐに足元に感覚が戻った。
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