開発部の門田さんは独占欲が強すぎる
「門田さん。明日ですが、視察が来るの覚えています?」
「あぁ、あれね。覚えてるよ」

 彼が椅子ごと振り返る。

「どうせ大したこともしないし、橘が気にする必要はないよ」
「そうはいってもですねぇ」

 この部屋の有様を見て、この人はなにも思わないのだろうか?

 散らばった書類。あふれたごみ。見るも無残な状態である。

「一応片付けておいたほうがいいと思いますけど」

 私の言葉に門田さんは返事の代わりに大きく息を吐いた。

 彼が前髪を掻きあげる。覗いた素顔に、不覚にもいつもドキッとさせられてしまう。

「気にしなくていいよ。どうせすぐにこの状態に戻るんだから」
「で、ですけど」

 鋭い瞳が私を見据える。

 私はこの人に出会うまで、この世にはこんなにもかっこいい人がいることを知らなかった。

 芸能人と言っても通用しそうなほどの美貌。

「じゃあ、橘が片付けて。俺は忙しいんだから」
「……そうですね」

 もう、説得はあきらめよう。

 そもそも、はじめから私がやったほうが早い。この人に期待するだけ無駄だ。

(この人のことみたいに、全部割り切れたら楽なんだけどな)

 と思っても、すべてを簡単に割り切れることはない。

 特に、元々好きだった人のことなんて。

 頭の中に浮かぶのは、昼休みに見たメッセージ。

(今更会いたいとかよりを戻したいとか。どれだけ自分勝手なのよ)

 なのに心が揺れるのは。

 ――私の中に、あの男への未練があるからなのだろう。

(本当に自分で自分が嫌になるわ。あんな浮気男のことを忘れられないなんて)

 一人物思いにふける私は気づかなかった。

 門田さんが私のことをじっと見つめていたことに。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop