神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
ついさっきまで、そこにいたはずなのに。

「あいつら…。何処行ったんだ?」

「さぁ…?」

きょろきょろと、周囲を見渡すも。

二人共、何処にもいなかった。

気配を消すことも、足音を立てずに消えることも、二人の得意分野だからな。

いつの間にか現れて、いつの間にか消えている。

「まったく…。何なんだ、あいつらは…」

この時、俺は思い出すべきだった。

…元暗殺者組の令月とすぐりが、気配を消して、こっそり逃げ去る時は。

二人が、暗殺者特有の「不穏な気配」を察知した時である、ということを。

「それよりも、キュレムとルイーシュの話だ。アーリヤット皇国に行ったってどういうこ、」

と、聞きかけたその時。

背後から、修羅か般若のような、恐ろしく強い殺気を感じた。

思わず、背筋がぞわっ、と粟立った。

その気配を感じて、俺だけではなく、シュニィまでその場に硬直し。

「ひぇっ…!?」

ビビリのシルナなんか、情けない声を出して縮こまっていた。

…それもそのはず。

恐る恐る、背後を振り向くと。

そこに、メラメラと怒りのオーラを発する…、

「じゅ…ジュリス…!?」

「…」

普段は穏やかで、おおらかで、兄貴肌で、度量が広くて。

誰にでも親切で世話好きで、上司からは可愛がられ、部下からは慕われ、同輩からは信頼される。

それが、俺の知っているジュリス…の、はずだった。

しかし、そんなジュリスが、今は。

煮えたぎる怒りのオーラを纏い、髪の毛を逆立てんばかりに怒り狂い。

ずしん、ずしん、と重い足音を立てながら、こちらに近づいてきた。

「で、出たぁぁぁ!」

「ちょ、俺を盾にするな!」

ビビリ散らしたシルナが、あろうことか、半泣きで俺の背中に隠れようとしていた。

やめろって。俺だって怖いんだぞ。

「ど、ど、どうしたんですかっ?ジュリスさんっ…」

勇気を出して、何とかジュリスに声を掛けるシュニィ。

その勇気は尊敬に値する。

だが、さすがにその声は上擦っていた。

「な、な、何があっ、」

「…ベリクリーデは?」

般若、もとい。

ジュリスが、口を開いた。

その声は、いつもの声色と比べると、3オクターブくらい低いような気がした。

「えっ?」

「ベリクリーデは…戻ってきてるか」

べ…ベリクリーデ?

ジュリスが、「ここまでの状態」になるのだから。

その原因は、ベリクリーデのこと以外、有り得ない。

「ベリクリーデさん…?い、いえ…。見てません、けど…」

「…」

「ジュリスさんと…一緒だったんじゃないんですか?」

シュニィが、声を震わせながらそう答えると。

より一層、ジュリスの怒りのオーラが強くなった。

「ひっ…」

シュニィ、涙目。

このまま、シュニィに襲いかからんばかりの剣幕のジュリスに。

俺は、何とか前に出て、ジュリスに話しかけた。

「お…落ち着け、ジュリス。何があった?ベリクリーデに、何かあったのか?」

「…」

おい。なんで無反応?

「あの…ジュリス。俺達に出来ることがあれば、その…」

「…エリュティアを呼んでくれ」

「えっ?」

その時。

俺はジュリスが、大きな足跡のこびりついた、白いビニール袋を持っていることに気づいた。
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