神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
連れて行かれたのは、キルディリア魔王国、ファニレス王宮にある、王の間。

そういえばこのお城、私、前に来たことがあるね。

ジュリスと一緒に、こっそり潜入したんだった。

あの時はジュリスが傍にいたから、何が起きても全然平気だったけど。

今は一人ぼっちだから…ちょっと、不安だな。




「陛下。お連れしました」

「ほう。…よう来たな、聖神ルデスの写し身殿」

王の間には、玉座に座った女性が、優雅に足を組んで腰掛けていた。

…この人がイシュメル女王。

それより、この人も私のこと、写し身って。

「私、写し身殿、なんて名前じゃないよ」

「ふむ、不満か?ではなんと呼ぶべきか…。巫女殿、とでも呼ぶか?」

「巫女殿でもない。私はベリクリーデだよ」

それ以上でも、それ以下でもない。

…今は。

「己の存在の価値に気づいておらぬとは、なかなかに滑稽なものよな」

「…」

「おぬしには、世界を統べる力があるというのに。聖魔騎士団などというちっぽけな組織に飼い殺しにされるなど…」

「…私、ちゃんと生きてるよ」

君はそう言うけど。

飼い殺しだ、って言うけど。

そこに飼われているのだとしても、私はちゃんと生きてる。

ちゃんと…幸せに、毎日を生きている。

それって、世界を統べることなんかより、ずっと大事なことじゃないかな。

「ちゃんと生きてるから…。私はそれで良いの」

「…ふむ」

「だから、私をルーデュニア聖王国に帰して」

ジュリスのところに。

私、別に世界なんて要らないから。

…しかし。

「それは出来ぬ相談じゃな」

「…どうして?」

「おぬしをここに連れてきたのは、聖魔騎士団に対する人質であり…。そして、これは兼ねてからの、約束でもあるからじゃ」

…人質…。…約束。

それって、どういう、

「その為に、薄汚い暗殺者組織まで雇ったのじゃ。おぬしには、存分に役に立ってもらわねばな」

「…私を、どうするの?」

「それはお楽しみじゃ。…まぁ、それまでは精々、ゆるりと疲れを癒やすが良い。城から出なければ、好きに過ごして良いぞ」

そう言って、イシュメル女王は横に控えていた、シディ・サクメに声をかけた。

「サクメよ」

「はい、陛下」

「写し身殿を、客室に案内してやれ。くれぐれも丁重にな」

「畏まりました。…写し身様、こちらに」

…また、写し身って。

私はベリクリーデなのに…。

シディ・サクメに促され、私はくるりと女王に背中を向けたけれど。

…。

王の間を出る間際、私は女王に振り向いた。

「…ねぇ、君」

「何じゃ」

「何もかも、君の思う通りにはいかないよ。一生懸命頑張ってるのは…君だけじゃないんだから」

「…」

イシュメル女王は、扇で口元を隠しながら。

ふっ、と不敵に微笑んだ。

「まったくその通りじゃ。写し身殿の警告、肝に銘じておこう」

「…うん、そうして」

あと、私はベリクリーデだから。

写し身殿、なんて呼ぶのはやめて欲しいな。…もう言わないけど。
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