神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
…5分後。

ルーデュニア聖王国の我らが女王、フユリ・スイレン様が。

イーニシュフェルト魔導学院の学院長室のソファに、ちょこんと座っている…という。

異様な光景を目にすることになった。

「…大したものではありませんが」

相手が誰だろうと、まったく臆することのないイレースが。

来客にはいつもそうしているように、お茶を入れて、フユリ様の前に出した。

「ありがとうございます。お構いなく」

フユリ様は、ぺこりと頭を下げて答えた。

…いやはや。

この学院長室に…フユリ様がいる。

やっぱり、なんかの冗談かと思って。

目をごしごしと擦ってみたけれど、やっぱり冗談ではなかった。

「ど、どうしよう…。僕、女王陛下に謁見する時の、正しい作法なんて知らない…」

天音が小声で、おろおろと呟いているのが聞こえた。

無自覚に無礼な言動をして、フユリ様に失礼を働いてしまうことを恐れているようだが。

その気持ちはよく分かる。

が、イシュメル女王ならともなく、フユリ様相手なら、そんな心配は要らないぞ。

すると、こちらも恐れ知らず(不死身なので)のナジュが、けろっとして、

「大丈夫ですよ、天音さん。女王だって、ただの人間なんですから。そんな怖がらなくても、もごもごもご」

「な、ナジュ君!失礼だよ…!」

ナジュの失礼な発言を止めようと、天音は慌ててナジュの口を両手で塞いでいた。

…お前な。自分が不死身だからって。

万が一フユリ様を怒らせて処罰を下されても、痛くも痒くもないと思ってるんだろうが…。

…あぁ、もう良い。

そんなことよりも。

「フユリ様…」

俺は、フユリ様の顔色を窺うように、そっと顔を上げて、フユリ様を見つめた。

…これまで俺は、シルナの付き添いとして、何度もフユリ様に謁見したことがある。

だけどそれはいつも、王宮でのことだった。

フユリ様がシルナを王宮に呼んで、俺がそれについていって…というように。

フユリ様自身が、わざわざイーニシュフェルト魔導学院に足を運び。

こうして、シルナと対面しているところは…初めて見た。

わざわざ、フユリ様自ら、学院までやって来るなんて。

これはただ事ではないと、すぐに理解した。

「…すみません。どうしても、すぐにシルナ学院長とお話したいと思って…。突然押し掛けてしまいました」

あろうことか、フユリ様は、シルナに向かってぺこりと頭を下げた。

相変わらず、腰が低い。

「ご迷惑をかけて、申し訳ありません」

「いや、そ、そんな、迷惑だなんて…。むしろ、私に用があるなら、呼んでくだされば、すぐに王宮に伺ったのに…」

「…いいえ。今回ばかりは、私もシルナ学院長に、頭を下げる立場ですから」

え?

「…」

さっきまで、失礼なことを言っていたナジュでさえ。

今は、無言でフユリ様をじっと見つめていた。

ナジュはお得意の読心魔法で、フユリ様がこれから言わんとしていることを、いち早く察したのだろう。

…ナジュが、こんなに真面目な顔してるなんて。

本当に…ただ事じゃないぞ、これは。

「…失礼ですね、羽久さん。僕はいつだって真面目で…」

「良いから。ちょっと静かにしてろ」

俺の心まで読まなくて良いから。こんな時に。

それよりも。

「フユリ様…。一体どうされたんですか?何が…、」

「…旧アーリヤット皇国領の各地で、反政府デモが起きているそうです」

フユリ様は、真っ直ぐにシルナの目を見つめ。

真摯な表情で…何処か引き攣ったような表情で…シルナに、そう告げた。
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