神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「…それで、結局何の用なんだ?」

無闇が、俺とシルナに尋ねた。

あ、ごめん…。さっさと用件を話せ、ってことだよな。

と言っても、俺は知らないんだが…。

「…シルナ…」

「…うん。実は、みんなに頼みたいことがあるんだ」

俺が促すと、シルナがそう答えた。

「頼みたいこと…?」

「えっと…端的に言うと、この中の誰かに…キルディリア魔王国に行って、イシュメル女王に直談判して欲しい」

えっ。

これには、俺のみならず、この場にいた他の大隊長達もびっくりだった。

驚いていないのは、新たなお絵描きに夢中のベリクリーデだけだった。

ベリクリーデ。お絵描きに夢中になるのも良いんだが。

話をちゃんと聞いてくれ。頼むから。

…って、今はそれよりも。

「シルナ、どういうことだよ…?」

この中の誰かが…キルディリア魔王国に…って。

「言葉通りの意味だよ。…これ以上の戦争行為を止める為には、イシュメル女王に直接、停戦を要請するしかないと思うんだ」

「…それは…」

…現状、「引き際」であるにも関わらず、イシュメル女王は撤退する様子を見せない。

つまり、彼女はまだやる気なのだ。

本気で、アーリヤット皇国を侵略しようとしている。

誰かが止めなければならない。

アーリヤット皇国民ではない、第三者の人間が直接イシュメル女王に会って、直談判しなければ。

その「誰か」に、立候補してくれないかと。

シルナは、シュニィ達にそう頼んでいるのだ。

「…ごめんね、こんなこと…。私がみんなに頼む義理じゃないっていうのは分かってる」

シルナは申し訳なさそうに、皆に頭を下げた。

「私が行きたいのは山々なんだ。私の言葉なら、イシュメル女王も耳を貸してくれるかもしれない。けど…」

「あんたは駄目だろ。前回キルディリア魔王国に呼ばれた時、どんな目に遭ったか忘れたのか?」

真っ先に、ジュリスが声を上げた。

…その通り。

イシュメル女王に名指しで呼ばれて、ホイホイノコノコと、キルディリア魔王国を訪れたが最後。

俺とシルナは、イシュメル女王に脅され、キルディリア魔王国に半ば、幽閉される身となった。

偶然、別の目的の為にキルディリア魔王国を訪れていた、ジュリスとベリクリーデが俺達を見つけてくれ。

逃亡に手を貸してくれたお陰で、何とか、這々の体でルーデュニア聖王国に帰ってくることが出来たが。

…もし二人の助けがなければ、今頃どうなっていたか。

その説は本当に、お世話になりました。

迷惑かけたと思ってるよ。…マジで。

「次行ったら、あんたら、今度こそ二度と戻ってこられないぞ」

「う、うん…。私もそう思う…」

俺もそう思う。

「だから…私は…私と羽久は、どうしてもキルディリア魔王国には行けなくて…。だから、他の誰かに頼まなくちゃいけなくて…」

しどろもどろ、とシルナは説明した。

…成程。

それで、誰か代わりに行ってくれないかと、聖魔騎士団に頼みに来たんだな。

「みんなを危険に晒すようなことはしたくない…。だけど、誰かが止めなければ…。この戦争は、きっと際限なく、世界中に広がっていく」

「…」

「今はルーデュニア聖王国も、対岸の火事でいられるけど…。アーリヤット皇国が占領されたら、ルーデュニア聖王国も他人事ではいられないと思う。だから、そうなる前に…」

「…分かりました。私が行きます」

真っ先に答えたのは、シュニィだった。

彼女はシルナの目を真っ直ぐに見つめ、はっきりと言った。

シュニィの眼光には、確固たる意志が宿っていた。
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