神殺しのクロノスタシス7〜後編〜
「…」

…こうして会うのは、久し振りだな。

ご無沙汰してます…なんて、気さくな挨拶をする仲ではないが。

イシュメル女王の後ろには、女王の側近であるシディ・サクメの姿もあった。

そのサクメは、険しい顔でこちらを睨んでいた。

こわっ…。

一方のイシュメル女王は、俺達の姿を見ても、いつも通り、余裕の微笑みを崩さなかった。

大した器だよ、あんたは。

シルナに爪の垢を煎じて飲ませたいくらい。

「…」

シルナが、こちらをじーっと見ていた。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」の眼差しだな。

黙らっしゃい。

今、それどころじゃないんだよ。

「…ふふ」

イシュメル女王は俺達を見て、不敵に微笑んだ。

…その笑いは何だよ。

そして、くるりとブラマンジュに振り向いて、指示した。

「ブラマンジュよ、おぬしは下がれ」

「はい」

ブラマンジュは一礼して、客室から出ていった。

部屋の中に残ったのは、俺とシルナ、そしてイシュメル女王とシディ・サクメの四人だけである。

「…イシュメル女王…。私達は、」

「このような回りくどい手段を使わずとも、おぬしらなら、直接ここに訪ねてきても良かったのだぞ」

シルナが口を開こうとすると、イシュメル女王がそれを遮るように言った。

「イーニシュフェルトの聖賢者殿の来訪ともなれば、心を込めて歓迎してやらねばな?」

「…いえ…そんなことは」

「とはいえ、知っての通り、今は少々、面倒な小競り合いが続いておってな。大したもてなしもしてやれそうにない。不甲斐ないことじゃ」

面倒な…小競り合い。

アーリヤット人の決死の反乱でさえ、イシュメル女王にとっては「面倒な小競り合い」以外の何物でもない、と。

「…イシュメル女王、突然押し掛けてしまったことは謝ります」

「なに。おぬしらがアーリヤット領にやって来たことは、とっくに知っておる」

「…」

「『お仲間』も来ているのだろう?既に、軍から、各地で反乱の鎮圧活動を邪魔する者が現れた、との報告を受けておる」

鎮圧活動を邪魔する者…。

クュルナや無闇、そしてジュリスとベリクリーデ達だな。

良かった。みんな…無事に、予定通り、キルディリア軍とアーリヤット市民の対立を収めているらしい。

まぁ…そのことはこうして、既に、イシュメル女王の耳に届いているようだが。

どうせ遠からずバレるのだから、今知られたって、どうってことはないな。

「何故そのようなことをする?アーリヤット領での小競り合いに、ルーデュニアが介入する理由が何処にある」

お前達には関係ないだろう、と言わんばかり。

そうだな。確かに関係ない。

余計なことをするな、首を突っ込むな、と言いたいのだろう。

だけど、そうは行かない。

「イシュメル女王…。あなたはやり過ぎたのです」

と、シルナが言った。

珍しく、真剣な口調である。

「やり過ぎだと?…何が?」

自覚がないのが、逆に恐ろしい。

「アーリヤット領を武力によって制圧して、アーリヤット皇国の民を従わせて…」

「この領土は、わらわが手に入れたのじゃ。わらわがどう統治しようが、ルーデュニア人に口を出される謂れはない」

「いいえ、口を出す謂れはあります。旧アーリヤット皇国で行われていることを聞いて、我が国の民も怯えています。…それに、フユリ様も」

「…」

フユリ様の名前を出すと、イシュメル女王の微笑みが消えた。
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